長きに渡って物語解説を書いてまいりました今古奇観。中国白話小説のエッセンスがたっぷりつまっているので、是非是非中国好きの方々に読んでいただきたい作品。そこらへんの図書館に行けば、大体置いてあるのではないかと思います。
 このレビューは春秋梅菊が個人的に面白いと思ったタイトルを抜き出して紹介したものなので、実際は半分も紹介していません。なので、残りのタイトルについてもここで載せておこうと思います。
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さて、今回にて今古奇観レビューも最終回です。最後にご紹介するお話は第三十九巻「夸妙术丹客提金」。「初刻拍案驚奇」の第十八巻にあたるお話。テーマは錬金術。中国では伝統的に道教がこの種の技能に通じており、仙丹という長寿の薬を生成したり、石や鉄を金銀に変えることが出来るとされていた。
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本作のレビューもいよいよ大詰め。今回紹介するのは今古奇観の第三十八巻「趙県君喬送黄柑子」。「二刻拍案驚奇」の第十四話にあたる。
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 ご紹介する今回のお話は「金玉奴が棒で薄情者を打つ」。
古今小説の第二十七巻にあたる。原題は「金玉奴棒打薄情郎」。
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今回のお話は「乔太守乱点鸳鸯谱」。醒世恒言の第八巻。
太守というのは知事の別名。鴛鴦譜というのは夫婦のたとえ。つまり日本語の意味としては夫婦争いをまとめるといったところ。
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今回のご紹介は第二十七回「钱秀才错占凤凰俦」。
醒世恒言の第七巻。前回紹介した「蔡小姐忍辱报仇」の話は醒世恒言の第三十六巻だったが、今古奇観では話の順序が適当に入れ替わっている。
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久しぶりの今古奇観レビュー。もう後半突入です。
今回紹介するのは第二十六巻「蔡小姐忍辱報仇」。邦題は「蔡小姐が恥を忍んで仇を討つ」。
醒世恒言の三十六話にあたる。

ものがたり
明の宣徳年間、武官の蔡武とその夫人は大の酒好き。ある時、目をかけてやっていた趙家の若者が科挙試験に合格、出世した恩に蔡武へ高い官職を与えてくれた。喜ぶ蔡武だが、娘の瑞虹は父が日頃飲んだくれているので赴任地の勤務は務まらないだろうと反対する。しかし蔡武はそれをおしきって家族と共に任地へ出発。
一家の豪勢な姿を見て、船頭にして賊の陳小四一派は瑞虹を残して蔡家の人間を上から下まで殺害、川へ沈める。瑞虹も逆らえず手籠めにされてしまった。その後、陳小四の仲間は彼だけがいい思いをしているのに不満を持ち、蔡家の財産を勝手に山分けして逃げてしまう。陳小四は一人だと船を動かせないので、口封じのため瑞虹の首を絞めて逃げてしまう。幸い、瑞虹は気を失っただけで生きていた。
悲しみにくれながらも仇討を誓う瑞虹。そこへ通りかかった客商の卞福という男、彼女が美人なのに目をつけ、仇討を手伝ってやるからと妾にしてしまう。が、嫉妬深い本妻によって瑞虹は人買いに売られてしまう。妓楼に売られた瑞虹に目をつけたのが遊び好きな胡悦という男。彼は瑞虹を買い取って妾に。瑞虹はこれまでの経歴を話して仇討をお願いする。しかし胡悦も悪人で、適当なことを言っては仇討を先延ばしにする。そしてこの胡悦の本妻も嫉妬深かったので、彼は瑞虹を連れて紹興に。表向きは瑞虹の仇討のためと繕ったが、実際はそこにいる友人と協力して官職を買うつもりだった。紹興に着いたはいいが、頼りの友人は死亡しており、別の友人を頼ったところ騙さされて有り金を失う。すっかり乞食同然の胡悦は瑞虹を使って美人局をすることに。瑞虹は嫌がったが、他にどうしようもなかった。街中で朱源という男と偽の縁談を結ぶ彼女だったが、人を騙すのが忍びなくなってとうとう美人局の件を打ち明ける。朱源は彼女をかくまった。胡悦と美人局に協力していた悪党は瑞虹が見つからないので争いになり自滅。
朱源は立派な人だったので、試験勉強のかたわら彼女のために尽力した。瑞虹は身ごもり、男の子を生む。その後努力が実って知事の地位を手に入れると、今は呉金と名を替えた陳小四と一味を見つけ出し、太守の助けで彼らを死刑に処す。また瑞虹は朱源に、生前蔡武が産んでいた妾腹の子を探してほしいと頼んだ。その子供は男の子で八歳になっていた。
万事が綺麗に片付いた後、家にいる瑞虹から手紙が届く。そこには朱源に対する感謝が述べられており、また自分は汚れた身なので、死を以て一族に詫びると書かれていた。その死を朱源は悼む。その後、瑞虹の産んだ子は若くして試験に合格、彼の話を聞いた天子は瑞虹を烈婦として祀るのだった。

冒頭の詩では酒飲みを戒めるよう述べているが、はっきりいって本筋と全然関係ない(笑) 初読の人はきっと大酒飲みが失敗する話だと誤解するだろう。実際はあらすじでおわかりの通り、全編に渡って鬱展開マックスの陰湿な物語。
いわゆる烈婦もののお話。有名なのは謝小娥でしょうが、今回のお話もそれと同パターン。
ヒロインである瑞虹の不幸ぶりは凄まじく、善人の皮を被ったゴミクズの男どもに三回も騙されて弄ばれてしまう。この時代の女性の無力さが伝わってくる。彼女が途中で死なずに朱源という本当の善人に出会えたのも、結局は運でしかないわけで…。しかも最終的には、自分は貞節を守れなかったからと死んでしまう。う~ん。なんとカタルシスの無い終わり方。一方で、胡悦や卞福の妻は家庭内で絶大な力を誇っており、夫も頭が上がらないほど。このあたり、正妻という立場がいかに女性を強くさせているかがよくわかる。
ちなみに胡悦が上京するくだりでは、当時の官吏がいかに汚い手段で出世していたかが詳しく述べられている。こういう部分は今の中国の汚職にもつながる部分があり、なるほどと思う。
今回ご紹介するのは「喻世明言」より「蒋兴哥重会珍珠衫」の話。邦題は「蒋兴哥が珍珠衫に再び出会うこと」。いわゆる庶民の昼ドラ作品。個人的には、今古奇観の中でもかなり好きな一遍だったりする。

ものがたり
湖広の蔣興哥は父について商売を学び、若くして世渡りの術を身につけていった。彼は父の葬儀後に、許嫁であった王家の娘、三巧児を妻として娶る。二人とも美男美女であり、一対の玉器のような夫婦だった。仲睦まじく数年を暮していた夫婦だが、やがて商売のために蔣興哥は旅立ちを余儀なくされてしまう。彼は三巧児に対して、近所に浮気癖の輩が多いので決して外へ出歩かないことを約束させ、いよいよ出発する。もとは一年で戻ってくるはずだったが、旅先の広東で病気になり、商売もはかどらず足止めを食ってしまう。その頃、残された三巧児は夫が恋しくてたまらない。ある時女中の連れてきた占い師の言葉を聞き、それからは夫の帰りを待ちきれず二階から顔を出すようになる。それを、近所にいた陳大郎という男に見初められてしまう。陳大郎は彼女をものにしたくなり、周旋屋の薛婆さんへ相談を持ちかける。薛婆さんは三巧児の前で真珠を売りさばく振りをして興味を引き、三巧児と友人の関係を築く。その後、薛婆さんは度々彼女の家へ出入りするようになり、ある時三巧児がお酒で酔った隙をついて陳大郎を引き入れ、思いを遂げさせてやる。三巧児は最初こそ罪悪感でいっぱいだったものの、薛婆さんに色々と色恋について吹き込まれていたため、どうしても陳大郎と別れるのが惜しく、そのまま愛人の関係を続けてしまう。やがて清明節の頃、陳大郎は郷里に帰らなければならなくなった。三巧児はすっかり彼に思いを寄せていたので、再会を約束する品として暑い季節もクールに涼しく過ごせる「珍珠衫(しんじゅのしたぎ)」を送る。
さて、陳大郎は故郷に帰る途中、羅という粋な男に出会う。これがなんと本名を隠して商売をしていた蔣興哥であり、調子に乗った陳大郎がぺらぺらと三巧児のことをしゃべるので、すぐ真相に気がついてしまう。蔣興哥は自宅に戻ると、妻を両親のもとへ帰らせ、さらに離縁状を送りつける。当然、両親が何事かと問いただしに来たが、蔣興哥は理由なら三巧児に聞いてくれの一点張り。三巧児は自分の浮気がばれたと知って、恥ずかしさの余り泣くばかり。その後、蔣興哥は女中と薛婆さんを叩きのめして鬱憤を晴らす。離縁はしたものの、夫婦はお互いにまだ気持ちが残っており、辛い別れだった。ある時、南京の呉傑という進士が湖広の知事になり、やもめになっていた三巧児を妻に迎える。一方、故郷に帰った陳大郎は商売がうまくいっていなかった。妻の平氏を置いて再び三巧児のところへ行くと、既に彼女は他へ嫁いでしまっている。ショックで病気になった彼は、病弱して死ぬ。残された妻の平氏は夫の葬儀をあげたが、すっかり貧しい身の上に。彼女は張という隣人に再婚を勧められて新たに嫁いだが、それはなんと蔣興哥だった。平氏が珍珠衫を持っているのを見て、その因縁に驚くのだった。蔣興哥は平氏と仲良く暮らしていたが、ある商売で老人ともめ事を起こし、死なせてしまう。そのため裁判にかけられることとなったが、知事は三巧児を妻にしている呉傑だった。かつての夫の姿を見て、三巧児は必死に減刑を求める。蔣興哥が自分の兄であると嘘をついて。呉傑は話のわかる人間だったため、刑罰をすることなくこの件を取りさばく。抱き合うかつての夫婦。様子がおかしいとみた呉傑が問いただすと、三巧児もようやく真実を語る。呉傑は二人に復縁を薦め、かくして蔣興哥は平氏と三巧児、二人の妻を娶ることになった。その後、三人は仲良く暮らしたのだった。

本作は時代の特定が出来ない。描写を見る限りだと、恐らく明代。
物語はまさに庶民の昼ドラ。三巧児はもともと操の固い女だったのだが、周旋屋の薛婆さんにそそのかされて団地妻のようにだらしない淫らさを発揮してしまう。この薛婆さんの計略がまたうまい。中国古典に出てくる周旋婆さんは殆どの場合ろくでもないことをしでかしてくれるのだが、世故に長けた彼女達のキャラクターそのものはリアルで、読んでいると色々唸らされるのも事実。金にがめついだけで、決して悪人とは言い切れないのもポイント。物語紹介では省いてしまったが、陳大郎と三巧児を引き合わせる計略は見事で、いーとこ育ちの三巧児があっさり騙されてしまうのも仕方ない。仲人や幇間、周旋屋といったキャラクターは、中国古典の特徴の一つといってもいいだろう。
三巧児はまさに箱入り娘がそのまま奥さんになったような女で、結構隙だらけ。夫に依存しがちな面も見受けられる。一方で、陳大郎の妻である平氏はしっかり者の印象が強い。夫が亡くなって困窮した時も、自分の針仕事の腕で身を立てていこうと考えるなど、自立心のある強い女である。
蔣興哥も陳大郎も情のある男だが、どっちも女性の扱いが下手というか悪いというか(汗)
ちなみに、現代の感覚だとちょっと忘れてしまいがちになるが、この時代の旅というのはかなり命の危険が伴うものであり、実際陳大郎は盗賊に襲われて商売を台無しにされている。蔣興哥と三巧児がなかなか別れられないのもこうした旅の危険ゆえだと思えばうなずける。
本作には珍珠衫というアイテムが出てくるが、これまたいわゆる中国古典の恋愛で出てくるハンカチや腕輪などの類にあたるキーアイテム。ハンカチ落とす=恋愛フラグなのです。実際にこういう下着があつたのかどうかは不明。





今回紹介するのは第十八回「刘元普双生贵子」。邦題は「刘元普が贵子を二人生む」。もとは「初刻拍案惊奇」の二十巻にあたる。今古奇観はこのカテゴリ最初の記事でも述べたように「三言二拍」(喻世明言、警世通言、醒世恒言、初刻拍案惊奇、二刻拍案惊奇)と呼ばれる説話集の中から四十編を選りすぐったものだが、その比重は割と三言に傾いていて、二拍の作品はそこまで多くない。

ものがたり
宋の真宗皇帝の頃、洛陽に劉元普という男がいた。六十で州の長官の位を退き、故郷に戻ってからも善行を続けている立派な人物である。困った人がいると、財産をなげうって助けていた。彼には四十歳になる後添えの妻、王夫人がいたものの、跡継ぎは生まれていないのが悩みの種だった。王夫人は自分も若くないので、しきりに夫へ妾を持つよう勧める。しかし夫は、嫁がされる女が不幸になるからと承知しない。ある時ふらりとやってきた道士に、もう残りの寿命が短いと宣言されたことも原因だった。そこで王夫人は密かに周旋屋の老婆を使って、いい娘を探させた。その頃、開封の役人である李克譲は赴任まもなく病気にかかり、息子の春朗と妻の張氏を残して死んでしまう。彼は洛陽に劉という親戚がいるから、そこで面倒を見て貰うようにと言い残す。貧しい道中を乗り越えて、張氏と春朗はどうにか劉元普のもとへたどり着く。さて、劉元普は二人を見ても親戚付き合いをしていた覚えがない。李克譲が書いたという手紙を見てみれば、白紙である。実は李克譲は、劉元普が義に厚い人であることを頼みに、妻子が会う口実として親戚を偽っていたのだった。劉元普もそれを察し、二人と自分のもとへおいて面倒を見る。
また一方、開封に裴安卿という勅使がいたが、ある時牢番に情けをかけたため、彼らは仕事を怠け、ついに囚人の脱獄を許してしまう。罪を問われた安卿は獄に繋がれ、体が弱って亡くなる。彼には蘭孫という娘がいたが、彼女は貧乏だったので、自分の身を売って父の埋葬をする費用を工面しようとする。そこへ劉家の王夫人から遣わされた周旋屋の老婆が通りかかり、彼女を劉家へ連れて帰る。王夫人は蘭孫の器量よしを喜んで、彼女を夫に嫁がせようとする。劉元普は蘭孫に会って彼女の詳しい事情を聞くと、一計を案じた。婚礼の当日、輿に乗っていたのは李家の子息である春朗だった。蘭孫と春朗の二人は、劉元普の取り計らいに喜ぶ。その日、劉元普の枕元に亡くなった李克譲と裴安卿の幽霊が現れ、劉元普に二人の子供と、三十年の寿命を延ばすことを告げる。
やがて、王夫人が子供を産んだ。男の子だった。またとある事件がきっかけで、女中の朝雲と一晩寝た劉元普は、またしても子供を一人得る。
その後、李家と裴家の子孫は科挙に及第して劉元普に恩を返す。李家の上奏によって、朝廷の仁宗皇帝も劉元普の名を耳に入るほどになった。劉元普は百歳で往生し、子供もめいめい高官となって代々栄えたのだった。


本作は入話が三つ(うち一つは詩、二つは物語)もある。くどすぎる気がしなくもない。
ようやく始まった本編も、かなり入り組んだ話になっており、なかなかボリューム溢れた作品である。しかしながら劉、李、裴の三家が入り組むうちに物語もまとまりを欠いてしまったように思う。
訓示的なテーマも含まれてはいるのだが、劉元普は殆ど財力で全てを解決している人間であり、ちょっと貧しい民間の人々には受けが悪いのではないかと思う。李家と裴家の主の死も、ドラマチックさが足りないというか、展開上殺しましたという雰囲気が強い。子孫にしても、自力で努力して出世した李春朗はともかく、蘭孫は非常に棚からぼた餅臭いハッピーエンドなので、これも余りいただけない。
もちろん、悪いところばかりかといえばそんなことはない。劉元普の底抜けた善人ぶりには癒されるし、彼の妻である王夫人のリアリストな考え方も面白い。
また物語紹介では少ししか触れなかったが、劉家の女中である朝雲と劉元普が子供を作るきっかけになったエピソードもなかなか笑える。
 今回紹介するのは第十七話「蘇小妹三難新郎」。資料によっては「蘇小妹三難秦観」という表記もあるが、意味は同じ。醒世恒言の第十一巻であり、邦訳は「蘇小妹が新郎を三度苦しめる」。
タイトルに出てくる蘇小妹は、あの宋代の大家・蘇軾の妹である。
え、蘇軾に妹がいたの? と驚く方もいるだろう。
もちろん、いません。この蘇小妹、創作上の人物。詳しくはまた下で語るとして、いつも通り物語紹介を。

ものがたり
四川の眉州には才人がいた。蘇老泉、蘇軾、蘇轍の三蘇である。だが実は才人は彼らだけではなかった。蘇老泉の娘である蘇小妹は才能に溢れ、また一家が文人肌であったために若くして大成する。老泉はある時詩作に難儀していたところ、部屋へ立ち寄った娘があっさり完成させてしまったのを見て、男であればよかったものをと嘆息する。それからは酷く娘を可愛がり、やがて彼女は十六歳を迎えた。その後、宮中でもライバルであった王安石が老泉を飲みに誘う。語り合ううちに王安石は息子の文才をひけらかすような発言をしたので、つい老泉も酔いに任せて娘の自慢をしてしまう。後で後悔したものの、王安石からは自分の息子の文章を小妹に添削してほしいと頼まれる。蘇小妹はあっさり批評を書く。その批評があまりにも上から目線なので、老泉はびびってしまう。適当に書き直して王安石に送ると、何と娘さんと縁談を結びたいという返事がかえってきた。老泉は娘はブスだからと言い訳して断る。ところが王安石は当時の宰相であり、その彼から求婚された娘がいると噂が伝わるや、蘇家に縁談を申し込むものが次々と現れた。しかし蘇小妹は申し込んできた者に文章を送らせ、出来が悪いと全て突っぱねてしまう。
ただ一人、秦観という揚州の者の文章は出来がよく、蘇小妹も興味を持った。しかし秦観の方は小妹がブスであるという噂も聞きつけていたので、ある日小妹が廟へお参りに出かけたところを道士に紛争して探りに行く。噂と違ってなかなかの器量なので、からかってみると受け答えも賢い。期日を選んで結婚した。しかし試験にまだ受かっていないからと床入りはお預け。その後試験に及第し、ようやく床入りできる……と思ったらまだ甘かった。蘇小妹は三問の題を用意しており、全部できたらあなたと寝てあげるという、面倒くさい要件を持ちかける。秦観は二問まで難なく解いたが、三問目がどうしても出来ない。しかし蘇軾が彼を影ながら助け、ようやく秦観は思いを遂げる。その後、夫婦は仲睦まじく暮らす。ある時小妹が都の兄のもとへ遊びに行くと、蘇軾は友人から出された題を解くのに難儀しているようだった。だが蘇小妹はそれをあっさり解く。蘇軾は妹の才をたたえた。蘇軾からの書簡でこの一件について知った秦観は、妻のことを試すべく自分も同じような題を送る。だが蘇小妹はそれをあっさり解く。才知に溢れた蘇小妹の評判は、宮中でも有名になった。その後小妹は夫に先立って亡くなる。秦観は彼女のことを生涯忘れず、二度と結婚しなかった。



入話では、文才のある女性達の名が沢山挙げられている。長い中国の歴史の中では女性の文学者も少なくない。彼女達の存在が、本編に出てくる蘇小妹の存在を説得力あるものにしている。
さて、その蘇小妹が架空の人物であることは上でも述べた。蘇軾は弟との間で大量の書簡のやり取りをしているのに、その中に蘇小妹に関する話題が一切出てこない。いくらなんでも、身内に対する話題で一言も触れられていないのはおかしい、というのが彼女の存在を否定する根拠になっている。
まあそうでなくとも本編を見れば、実在が怪しまれるのも大いにわかるだろう。蘇小妹ほどのスーパー才女は古典小説を読んでいてもなかなかいない。蘇軾の妹、という肩書きがあったからこそ、ここまで物凄いキャラクターが生まれてしまったのだろう。逆に考えれば蘇軾もそれだけ偉大な文人だったということだ。
何かと上から目線な蘇小妹は、結構キャラが立っている。王安石の息子の文章を見て「こんな文書く奴は早死にだわ」とまで言ってのけたり、兄の蘇軾に向かって複雑な言い回しで「お前の口がもじゃもじゃの髭に隠れて見えねーよwww」「顎長すぎて涙がいつまで経っても落ちないんすケドwww」とからかったり。
また本作は特異な詩のやり取りが多数登場する。ここではうまく紹介出来ないが、当時の知識人達がどのように教養をはかっていたかがわかるようで面白い。漢字や詩の奥深さを味わうことが出来る。
ものがたり紹介のところでも書いたように、全編通してなかなかコミカルなのも特徴。特に蘇老泉の娘への愛着は読んでいて愛らしさを感じる。秦観が道士に変装して小妹とやり取りをする場面もギャグ要素満載。
登場人物についてさらに述べていくと、やはり王安石と蘇家の関係が色々と興味深い。王安石は当時新法による富国強兵改革を進めていた人物で、老泉の息子蘇軾はそれに対して反対を訴えている。だが両者の仲の悪さは新法に始まったわけではなく、親の代からの長い因縁があった。一応、老泉と王安石はお互いの立場を重んじて表向き仲良くしているわけだが。コミカルな部分に隠れてしまってはいるが、このあたり史実をうまく話に取り込んでいる。
蘇小妹の夫である秦観も実在の人物で、蘇軾とは友人である。やはり相当な文才を持っていた。彼の本当の妻は徐文美という名で、子供は三人ほどもうけたらしい。