第四十八回 素敵な詩のつくりかた 入門編


・薛家では暮れの決算があるので、番頭の張徳輝が郷里へ戻ることに。それを聞いた薛噃はひそかに思案。
「俺は学問も武芸もからきしで商売も出来ない。このままじゃ駄目だ。ここらで旅にでも出てみて、見聞を広げてみるのも悪くは無い…」
そこで張徳輝と一緒に旅へ出ることに。薛未亡人へその話をすると、彼女は喜びながらも、息子がまたどこかで馬鹿をやるかもしれないので、決意がつかない。宝釵はそんな薛未亡人に対し、兄が真っ当な仕事をやりたいといっているのだから、やらせてみればいいと後押しする。かくして、薛噃は旅に出たのだった。

・薛噃がいなくなったあと、部屋の整理を始める宝釵達。妾の香菱は宝釵と一緒に大観園へ入ることとなった。
香菱「ねえ、宝釵お姉様。あたくしに詩を教えてください」
宝釵「そんなに急がないで。まずは園内の皆様に挨拶をしてきなさいよ」
そこへ平児がやってくる。宝釵は香菱を挨拶に行かせて、平児と話し始めた。
「璉旦那様が、大旦那様(賈赦)に打たれてしまったんです」
「まあ、またどうして」
「あの賈雨村とかいう男のせいですよ。大旦那様は石阿呆という男から古物の扇子を買おうとしたんですけれど、一本千両出しても売らないというんです。それが、賈雨村は石阿呆に適当な罪をでっちあげて裁判にかけてしまい、まんまと扇子も差し押さえてしまったんです。大旦那様は璉旦那様を役立たずだと罵り、打擲騒ぎになったんですの。で、ここからが本題なんですが、お嬢様のところで打ち傷に効く薬を貰えないかと思いまして…」
 合点した宝釵は、鶯児に命じて薬を持ってこさせるのだった。

・挨拶回りから戻ってきた香菱だが、宝釵がいないので黛玉のもとを訪ねる。
「わたくし、園に入って時間もありますし、詩を習いたいと考えているんですの」
「そーなの。あなたがよければ、私が先生をしてあげてもいいけど?」
喜ぶ香菱。基本的な詩の手ほどきをした黛玉は、香菱に詩集を貸してやる。毎日毎日懸命に勉強に励む香菱。そのうち、黛玉と詩の理念について語り合えるほどに。探春は詩会のメンバーが増えたことを喜んだ。
香菱は黛玉から「月」をテーマに詩を作ってみるよう課題を出され、飲み食いもそっちのけで詩作に励む。これには薛宝釵も苦笑気味。
「あらまあ、詩バカが一人出来上がっちゃったわね」
睡眠もまともにとらなかったり、ブツブツ独り言を呟いたり、何だか危険な状態に行き着いてしまった香菱だが、ようやく一首完成させて宝釵の批評を受ける。いい出来栄えだと思い込んでいた香菱は、手厳しい評価がかえってきたのにションボリ。

・李紈は香菱の気持ちを少し詩から離そうと、大観園の絵を描いている惜春のもとを訪ねる。絵は三割がた完成してて、宝釵や黛玉などの人物も書き込まれていた。

・その晩、またしても詩作にのめりこむ香菱。翌朝宝釵が目覚めると、力尽きた香菱が寝床に転がっている。このまま静かに眠らせておこうと思った矢先、寝言を言いだす香菱。
「出来たわぁ。これなら、出来が悪いはずがないわ…」
宝釵は笑いながら彼女を起こす。夢の中で本当にヒントを得た香菱はそれを清書し、どきどきしながら黛玉達のもとへ持っていくのだった。

待て次回

小言
今回は香菱の大観園入りが物語の中心。これまですっかり影の薄かった彼女だが、この回以降主要人物として活躍していく。そんな彼女は詩作にはまってしまうわけだが、その過程で作者曹雪芹の詩に対する考え方がうかがえる。自らの感情を素直に詩へ反映させる香菱達の姿は、形式的な学問に傾倒していく男性社会の警句になっているのではなかろうか。例えば、清朝の中ごろにもなると科挙試験は中身の無い形式的なものになっており、優れた人材を登用する試験としての役割を果たさなくなっていた。まあ、ここらへんは紅楼夢という作品だけで語るには無理のある話だけれども。気になる方は中国古典作品の傑作のひとつ、儒林外史を読んでみよう。
また前半では薛噃が心を入れ替え(?)旅に出ることに。ちなみに、この時代の旅というのは当然ながら現代と全く事情が違う。道も整備されていないし、賊がうようよしているので、常に命の危険がつきまとった。薛未亡人が息子を心配する理由も決して大袈裟なものではないのだ。

オマケ 林黛玉先生の作詩講座
・大事なのは起承転結よ。
・対句と平仄のルールを守ってね。
・でもルールにとらわれ過ぎちゃダメなのよ。
・規則は末、大事なのは着想なの。心がこもっていれば、言葉の飾りつけなんかいらないわ。
黛玉先生のありがたいお言葉を胸に、みんなも詩作をやってみよう!

気になる人物達
薛蟠…一念発起して客商をすることに。自分の行いに対して多少なりとも反省するぶん、賈環とかよりはマシかも。
香菱…薛蟠の妾。近頃出番が無かったので忘れている人も多いのでは。薛蟠との夫婦仲ははっきり言って微妙。宝釵の勧めで大観園に入り暮らすこととなった。
林黛玉…香菱の先生になる。彼女に対してやたらと面倒見がいいのは、宝釵との関係が一気に改善された影響だろう。
賈雨村…役人として気楽にやっている模様。扇子を手に入れて賈赦のご機嫌取りをした。
賈赦…鴛鴦の一件から日も経たないうちにまたしても騒ぎを起こす。迷惑なじーさんだ。
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