2015_02
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(Sun)21:35

紅楼夢 第五十一回

第五十一回 デタラメナオクスリ


・薛宝琴は自分がめぐってきた各地の古蹟をテーマに詩を詠む。赤壁や淮陰などの実在の地名を詠ったものの中に、何故か物語に出てくる架空の地名が混じっている。あれれ、それ変じゃないのとツッコむ姉妹達。
しかし黛玉がフォローを入れる。
「別に本当の場所じゃなくていいじゃない。みんながお話の中で知ってる場所なんだから」
李紈も言葉を添えた。
「きっとデタラメな人達が、物語の中にしかない古蹟を勝手に作っちゃったんでしょう。あっちこっちに有名人の墓が立ったりするのと同じですよ。去年だって、上京した時は関羽の墓を三四カ所も見かけましたし。一人の人間にそんな沢山のお墓があるはずないじゃありませんか」

・母が危篤になったため、襲人は急遽暇乞い。親を安心させられるよう、王熙鳳は襲人に高い着物を着せて、実家に帰らせた。

・襲人の代わりに麝月と晴雯が宝玉のお世話をすることとなった。が、晴雯はサボるし麝月では色々と行き届かないところがある。夜半、眠っていた宝玉は茶が欲しくなって襲人の名をしきりに呼ぶ。ようやく起き上がった麝月がお茶を注いで飲ませると、晴雯が一言。
「ねえ、あたしにも飲ませてよ」
「あなたったら図々しいのね」
「その代り、あなた明日の晩は働かなくていいからさ。ね、いいでしょ」
そこでお茶を飲ませてやる麝月。起き上がったついでに散歩をしたくなった麝月は部屋の外へ出ていく。
晴雯は麝月を驚かせてやろうとこっそり後を追いかける。が、外は思いのほか寒く、慌てて寝床へ戻ってくる(麝月は上着を羽織っていたが、晴雯は薄い寝巻のままだった)。
そんなところへ麝月が駆け込んでくる。
「あーもう、死ぬほど驚きましたわ。暗闇の中で大錦鳥が出てきたものですから!」

・晴雯は冷たい風にあたったせいで風邪をひいてしまう。宝玉は李紈に伝えて医者を呼んで貰う。やってきた医者は寝床御簾奥から伸びてきた美しい手を見て、患者はお嬢様だったのかとビビってしまう。診断を済ませて出てきた医者は、表の間にいた老女の言葉で、患者が単なる侍女だったことを知ったのだった。

・宝玉は医者の処方を見てびっくり仰天。薬の材料はどれも男性向けで、晴雯のような娘にはまるで適切ではない。すぐにいつもの医者を呼ぶように言うと、先に往診料をお渡しせねばという老女。宝玉はどれくらい払えばいいのかわからないし、普段襲人がどこに銀や秤を置いているかもサッパリ。てんてこまいしながらようやく麝月が大きな銀塊を見つけてきたので、それで支払うことに。
やがて、医者の王先生が新たに持ってきた処方を見て、宝玉はこれぞ女の子の薬と褒めちぎる。さっそくその場で薬を煎じさせるのだった。

・宝玉は史太君や王夫人のもとへ来て、ご機嫌伺いの後お食事。王煕鳳は季節が寒くなってきたので、家の厨房ではなく、大観園の建物で適当なところ台所に使って姉妹達の食事を作らせてはどうかと提案。史太君はその気遣いにすっかり感心。奥方たちの前で煕鳳を褒めちぎるが、一方でポツリ。
「わしはこの子を気に入っているんだけどね、あんまり利口過ぎなのも考え物だよ」
笑って答える煕鳳。
「あらまあ、確かに世間では利口者は長生きできぬ、なんておっしゃいますけれど、そんなこと心配する必要はありませんわ」

次回を待て

小言
冒頭では薛宝琴が史跡をテーマに史を十首詠む。が、中には西廂記や牡丹亭など小説にしか登場しない架空の場所が含まれている。それはおかしい、という姉妹達の意見は当時の文人からすればもっともな意見。が、林黛玉は宝琴の自由な発想をここで肯定している。作者の誌に対する自由な考え方がよくわかる一場面。
とはいえ、作者も鋭い突っ込みを忘れない。それが黛玉に続く李紈の言葉に表れている。孔子や関羽の墓が溢れる中国――つまりデタラメな人達が、ありもしないことをでっち上げて記念碑やら墓を好き放題に作っている。こうした行為は早い話、観光業を通じての金儲け狙いであることが多い。やや余談だが、日中戦争後の中国では観光客を呼び込むため、戦いが起こっていない場所でも「抗日記念」の記念碑があったりする。
とどのつまり、作者は詩作の姿勢として自由な発想を用いることは肯定している。しかしその自由な発想を金儲けなどの汚い目的に使うのは許せない、といったところだろうか。
後半は襲人の宿下がりによって、宝玉のお世話がガタガタになる。襲人の優秀さがよくわかる。また侍女達に世話をして貰わないと何もできない賈宝玉のおぼっちゃんぶりも強調されている。宝玉はまだいいが、侍女の麝月ですら金銭感覚に疎いところを見ると、賈家を襲う後の悲劇に一家がまるで対処出来なかったのも納得というもの。

気になる登場人物達
薛宝琴…まだ幼いせいか、姉の宝釵に比べると物事の考えにも自由な気風が感じられる。
林黛玉…宝琴をフォロー。宝釵の妹なので、宝琴にも心を許しているようだ。
賈宝玉…おぼっちゃんぶりを見せつける。薬の処方についても本当にわかってるんだかわかってないんだか。
王夫人…襲人を実家へ快く送り出す。基本的には善人なんだけどね…。
花襲人…母の危篤で暇乞い。宿下がりの時は随分きっちりした身なりにして貰ったが、これは当然お部屋様になったからそういう扱いになったのだろう。
晴雯…自由気ままな賈宝玉の侍女。サボり癖ありで、結構おバカちゃんなところも。
麝月…真面目ないい子だけど、襲人ほどのスペックは持ち合わせていなかったようだ。
王煕鳳…史太君とのやり取りは、実は終盤における伏線の一つになっている。


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