第六十回 ほうかん は なかま を よんだ!


・春燕は母親を連れて、鶯児へ謝罪に。その後、母親は出娑婆ることも無くなった。

・帰りがけ、薔薇硝を芳官へ渡してくれるよう、蕊官から頼まれる春燕。

・宝玉の部屋では、ちょうど賈環と賈琮が遊びに来ていた。春燕はこっそり芳官を呼んで、薔薇硝を渡す。戻ってきた芳官に、宝玉は何を持っているのか尋ねる。芳官がありのままを話すと、賈環が薔薇硝をねだった。
しかし、芳官にしてみれば大事な贈り物なので、渡すつもりはさらさらない。奥へ向かって自分の鏡台を漁ったが、いつも使っている白粉は無くなっている。ばたばたしていたところへ、麝月が一言。
「どうせ男の人なんかにわかりやしないんだから、そこらへんのものをくれてやればいいでしょう」
 そこで、芳官は茉莉粉を包んで環に渡す。

・大喜びで帰ってきた賈環。侍女の彩雲に茉莉粉をプレゼント。包みを開けるなり、吹き出す彩雲。
彩雲「若様、どなたから貰ってきたんです? あなた、騙されたんですよ。これは薔薇硝じゃありません」
確かに、よく見てみると色が違う。
賈環「ま、別にいいじゃん。とっておいて使いなよ」
お義理で受け取る彩雲。ところが、そばにいた趙氏がおさまらない。
趙氏「ふざけやがって! 役者上がりが、あんたをいい慰み者にしてからかってるんじゃないか。ちょうどいい、あのクソガキどもに思い知らせてやろうじゃないの!」

・彩雲らの制止も聞かす、飛び出していく趙氏。園内に来ると、老女の夏氏(先日、紙銭を焼く藕官を怒鳴っていた老女。藕官の義母でもある)に呼び止められる。芳官に一杯食わされた話を聞かせると、夏氏もここぞとばかりに煽り立てる。
「かまいやしません、思いっきり怒鳴りつけてやればいいんですよ。騒ぎが起きたらわたくし達も加勢しますから」
趙氏はますます勢いづき、宝玉の部屋へ乗り込む。

・折しも、怡紅院では宝玉が留守。侍女達がお昼ご飯を食べていた。趙氏がやってきたのを見た襲人はにこやかに席をすすめる。それをスルーした趙氏、持っていた茉莉粉を芳官の顔へ叩きつける!
趙氏「この小女郎がァ! 銀で買われた身分のくせして、主人を騙そうとはどういうつもりだゴルァ!」
芳官「薔薇硝が切れていたんですもん! 別に茉莉粉だってそこまで悪い代物じゃないでしょう! それにあたしが女郎だなんてあんまりです。外で歌を売り物にしてたことなんかりません」
 言い返す芳官を慌ててたしなめる襲人。が、時すでに遅し。爆発した趙氏が芳官をひっぱたく。喚き散らす芳官。
「あんたにあたしを殴る資格があるの! そんな御大層な顔をしてるのか、鏡をよく見てみろチクショー!」
 泣きながら趙氏へ突撃する芳官。襲人が止めようとすると、晴雯に引き留められた。
「いーじゃん、好きに暴れさせとこーよ。みんなで殴り合いになったらメンドーだし」
 趙氏についてきた老女連中は、芳官ざまぁwwwとご満悦。
 醜い女子プロレスが展開される中、騒ぎを聞きつけた藕官・蕊官・葵官・荳官の四人が乱入し、芳官に加勢。先手をうった荳官が趙氏へ見事なヘッドバッドを決め、残る三人がひっかく、かみつく、ほえる、とわらわらと襲いかかる。
 大爆笑する晴雯、おろおろする襲人。

・が、そんな最中にも、晴雯はこっそり春燕を探春のもとへ送っていた。やがて到着したのは尤氏・李紈・探春・平児そのほか妻女達とそうそうたる顔ぶれ。泡を食った趙氏はあれこれ話し出すが、まるでトンチンカン。ひとまず芳官たちを叱りつけ、趙氏を連れて出ていく探春達。
探春「まったく、一体なんなんですか! お部屋様ともあろう方がこんな騒ぎを起こすなんて。若い子たちがやんちゃをしようと、放っておけばいいんです。それがご自分の身分も忘れてはしたない真似をなさるんですから。少しは周のお部屋様を見習ってください。あと何日か辛抱すれば奥様も戻ってきますから、それでかたもつくでしょう」
 趙氏はしおしおと立ち去っていく。探春はこの騒ぎに裏があると睨み、老女たちに調べさせる。が、狡猾な彼女達は調べる振りして知らん顔。
 そこへ、探春の侍女見習いになっていた艾官が告げ口。「みんなあの夏婆さんの仕業なんです」
 しかし探春も娘役者達の気性を知っているので、おいそれとは信じない。噂というのはあっという間に広まるもので、夏婆さんの孫娘・蟬姐児がこの話を探春の侍女・翆墨から聞きつける。慌てて厨房へ行き、祖母に知らせる蟬姐児。

・そんなところへ、芳官がふらりとやってきた。厨房のまとめ役、柳のかみさんに向かって食事の注文を言いつける。柳のかみさんはわざわざやってきた芳官を厚くもてなした。一方、その場に居合わせた蟬姐児へ喧嘩を売る芳官(蟬姐児が、娘役者達に度々嫌がらせをしてきた夏婆さんの孫なので)。一触即発のところを周囲に止められ、渋々逃げ去っていく蟬姐児。

・柳のかみさんには五児という娘がいて、芳官をつてに娘を宝玉の部屋勤めに加えてもらうつもりだった。芳官は宝玉の部屋に戻ってくると、病弱な柳五児のために玫瑰露(玫瑰花の香をつけた薬。滋養増強の効果がある)を瓶ごと届けてやる。その日の五児は、いささか具合も良好なようだった。母に命じられて、芳官を見送る五児。帰りがけにふと尋ねる。
柳五児「ね、あたしのこと、宝玉様にお話してくれました?」
芳官「もちろんよ。今は紅玉さんと堕児さんの抜けた分が埋まってないんだけど、ほら、平児姉さんがいつも襲人姉さんに、人をむやみに増やしたり、お金のかかるようなことは先延ばしにした方がいいなんて言ってるの。それにあの探春様があちこち目を光らせて倹約倹約言ってるでしょ。だからご隠居様や奥様の方でゆとりが出来てからにした方がいいかもね」
柳五児「それはそうですけど、あたしがお部屋にはいれれば、母さんも楽になるし、うちの暮らしも少しは良くなるし、あたしの気持ちも晴れて、この病気がよくなるかもしれないんです。そうすれば、お医者だってかからずに済みますもの」
芳官「うん、わかってるわ。まあ大船に乗った気でいてよ」

・五児が戻ると、母は玫瑰露の瓶を手に小躍りしている。少し人に分けて徳を積もうなどと言う母へ、柳五児はいささか不満顔。
「他人に持って行って、あとでうるさく騒がれたりしたらどうするの?」
「そんな心配いらないよ。私達は汗水流して働いてるんだから、部屋の物を貰ったって当然さね」
そうして自分の兄弟のところへ玫瑰露を届けてやる柳のかみさん。ところが、そこに会いたくない顔ぶれがいた。娘の五児に度々縁談を迫ってくる銭家の若者だ。厄介な話を持ち込まれてはと、慌てて立ち去る柳のかみさんだったが、兄嫁に引き留められる。
「うちの亭主がお役人から、茯苓霜(虚弱体質の人間に薬効がある滋養強壮剤)という贈り物をもらったの。是非五児ちゃんに飲ませてあげて」
 だが、帰りがけに一人の若党が待ち構えていたのだった。

 待て次回

小言
本編がかなり長い六十回。
老女と侍女、はたまた主達の複雑な家庭内闘争が見もの。侍女同士でも仲の悪い連中はいるし、主連中もそれぞれ問題を抱えている。ストーリーも断片的なようでキチンとつながっており、例えば柳五児が宝玉の部屋になかなか入れないのは探春らの内政改革が原因だったり、趙氏が暴れたのもひとえに芳官一人の原因ではなく、複雑な要因が重なった結果ゆえの出来事だったりする。この回でこそまだ笑える騒ぎにおさまっているが、後々の回になると…。
前回から唐突に侍女の新キャラが増えているので、初読の時は混乱すること間違いなし。

気になる人物達
芳官…どんどん騒ぎを起こすように。自分によくしてくれる人達のことはちゃんと大事にする…ってそんなんでいいのか。かなり性悪な一面も見せた。
襲人…皆を仲裁しようとしてオロオロする姿がキュート。突発的なトラブルに弱いのかもしれない。
晴雯…盛り上がる女子プロレスを楽しみつつ、ちゃんと争いを止めるフォローもしていた。なんだ、仕事出来るじゃん。
麝月…芳官が茉莉粉を渡したのは彼女の言葉がきっかけなわけで、もしかすると今回の騒動の元凶といえなくもない。
趙氏…自分は妾だから召使いよりエライ!と主張したいのだろうが、事件ばかり起こして好感度ダダ下がり。かといって、何にも主張しないでいると、後に登場するある人物みたいな末路になっちゃうんだよなあ。
周氏…政の妾。ほぼ登場人物の会話内でしか登場しない。妾勢の中では珍しいまともな人。
探春…賈家の三女。生母のせいで悔しい思いをしている。芳官からは引き締めの厳しさを恨まれていた。芳官のことを「物」扱いしてるあたりが何とも良家のお嬢様らしい。現代だとこういう感覚はちょっと嫌われるかも。
李紈・尤氏…探春がいないと、どうにも頼りがいのない方々。
平児…熙鳳の代理にして探春の頼れる右腕。
賈宝玉…もう少し弟に優しくしてやれよ。今回の隠れた元凶その2。
賈環…彩雲に切符のいいところ見せようとしたが、失敗。ドンマイ。
彩雲…環のことが大好きな侍女。余計なこと言わないで貰っておけばよかったのかも。
夏婆さん…今回の元凶その3。趙氏をけしかけ、その後は知らん顔。汚い、さすがばばぁ汚い。
翠墨…探春の侍女。事件のことを蟬姐児に話すあたり、主への義理よりも、侍女同士の友情を優先したんだろうか。
蟬姐児…探春の侍女見習いにして夏婆さんの孫。いつも侍女達にあれこれ買い届けて仲良くやっている。
柳のかみさん…厨房女。芳官に対しては屋敷へ来た頃からずっと良くしてやっていた。そのため、芳官も柳母子のことを大切にしている。
柳五児…柳のかみさんの娘。後半の主役。病弱で気弱な性格。散歩に行くのもお母さんと一緒…って何そのお嬢様な扱い。何気に襲人らに並ぶほど優れた容貌の持ち主で、晴雯とはクリソツ。宝玉のお部屋に入ることを画策しているが…。

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