本作のレビューもいよいよ大詰め。今回紹介するのは今古奇観の第三十八巻「趙県君喬送黄柑子」。「二刻拍案驚奇」の第十四話にあたる。

ものがたり
北宋の頃、下級の官職を得て都の臨安に向かう途中だった呉約は、清河坊の宿に宿泊していたところ、向かいの家に住まう趙家の夫人を見初める。が、きっかけもないので手を出せずにいた。
そんなある日、蜜柑売りと賭け遊びをして一万銭も負けこんでしまった矢先、向かいの趙夫人から蜜柑が届けられる。蜜柑を持ってきた待童曰く「あなた様が負け続きなのが不憫だった」とのこと。その日を境に、呉約は夫人へ贈り物を贈って気を引こうとする。待童を仲介にして、何とか夫人と顔を合わせることは出来たものの、それ以上の仲へは進まない。
鬱々とした気分で、馴染みの芸妓・丁惜惜のもとへ足を運んだ呉約だったが、頭に浮かぶのは夫人のことばかり。丁惜惜を抱いている最中も夫人のことを考えている。恨み言を口にされて、呉約は丁惜惜のところへは通わなくなった。
待童から明日が夫人の誕生祝いと聞かされて、これは絶好の機会だと喜ぶ呉約。贈り物を携えて夫人の家へ遊びに行ったが、やはり夫人をものにすることは叶わなかった。しかし翌日、夫人から詩を書き付けた手紙が届く。呉約は脈有りだと睨み、再び夫人の家に赴く。見れば相手もその気があるような様子。お酒でもてなしを受けるうちにムラムラしてきた呉約は、我慢の限界とばかりに夫人へのしかかる。
 ところがその時、夫人の旦那が帰ってきてしまった。咄嗟に寝床の下へ隠れる呉約。夫人はおろおろして旦那に疑われるが、どうにかやり過ごす。呉約が安堵した矢先、旦那が寝床の上で足を洗いだしたので、飛び散った水が寝床の下に流れ込んでくる。思わず動いてしまった呉約は、そのせいで物音を聞かれ、隠れていたのがばれてしまう。怒り出した旦那は呉約を縛り上げ、夫人も縛り上げて役所に突き出すと脅しつける。呉約は必死に懇願し、二千貫の金で釈放して貰うことに。旦那は渋々受け入れ、下男達を呉約の宿へ差し向ける。下男達は二千両どころか呉約の財産を片っ端から運び出してしまい、呉約の損失ははかりしれなかった。
 翌日、旦那と夫人がいた家には誰もいなくなっている。今回の事件で醜聞を恐れて引っ越したのだろうか、呉約はそう考えた。
 気晴らしに丁惜惜のもとへ遊びに行った呉約は、ありのままを彼女に話した。すると、丁惜惜は笑いながら言った。
「あんたが欲張りだから、そんな手に引っかかるのよ。私も前に揚州へ行って、金持ちの若様をひっかけたことがあるわ。あなたが恋いこがれた奥様も、きっとどこかのあばずれに違いないわ」
 呉約はそこで自分が美人局にやられたと知った。旦那と夫人を探したが手がかり一つ掴めず、話を聞いた親戚には笑い物にされ、とうとうその一件が原因で心を病み、死んでしまうのだった。


いわゆる浮気詐欺の話。入話では美人局を逆にやりこめる遊び慣れた男、大損したけれど女を抱くことが出来た金持ち坊ちゃんのお話が語られる。
で、本編の呉約といえば金もふんだくられて女も抱くことが出来ず、挙げ句死んでしまうという最悪のパターン。まあ当時の民衆に対する戒めを込めた物語ということだろう。明らかに脈無しなのに、僅かな望みをかけて金銀財宝を貢ぐ呉約の姿は、読んでいて涙ぐましい。後もう少しで勝てるかもしれないと、パチンコに金をつぎ込む駄目男を彷彿とさせる(なんじゃそりゃ)。
芸妓の丁惜惜は脇役ながら、商売女らしいさっぱりした気性で印象に残る。これまで紹介した話だと、金よりも人間性を重んじる立派な芸妓が多かったが、実際には丁惜惜のような芸妓の方が一般的だったのでは無かろうか。足の遠のいた呉約に対して、恨みがましい気持ちを込めた歌を送ったりするのはなかなか愛らしくていい感じ。彼女の言葉にもあるように、趙夫人もどこかの芸妓だった可能性が高い。こういう騙した者勝ちな商売は、現代の中国人にも通じるところがあり、読んでいてなかなか興味深い。
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