第六十一回 柳五児「本当です! 信じてください!」←お前は一晩の軟禁だ!


・柳五児のおかみさんの前に現れた若党は、食べ物の心付けを持ってきてくれなければ今後門を開けてやらないと、半ば脅し気味に頼みごとをしてきた。

・何とかやり過ごして厨房に戻ると、迎春の侍女見習い・蓮花児がやってくる。
「司棋姉さん(迎春の侍女)が半熟の卵を欲しがってるんですけど」
 が、冷たく突っぱねる柳のおかみさん。
「ケッ、今年は卵が高くて手に入らないんだよ。また今度にしてくれと言っておくれ!」
 引き下がらない蓮花児は、厨房を探し回って十個ばかりの卵が入った箱を見つける。
「何よ、あるじゃない! 自分が産んだ卵でもないくせにケチケチして!」
「うるさい奴だねっ。全部ほかの料理のためにとっておいてあるんだよ! いちいちあんた方の注文につきあってたらあっという間に底をついちまうんだから!」
「この前晴雯姉さんの注文があった時は、へいこらして犬みたいにしっぽ振ってたのに、私に対しては人が変わったような態度で接するのね!」
 ぎゃあぎゃあ言い合っているうちに、司棋が遣いをよこしてきた。蓮花児は急いで司棋のもとへ戻り、柳のおかみさんのことをあれこれ話す。ブチ切れた司棋は、侍女見習い達を連れて厨房へ乗り込んできた。
「かまいやしねえ! ここにある料理はみんなぶちまけちまいな!」
 侍女達が一斉に厨房の皿や料理をひっくり返す。これには妻女達も大慌て。なんとか司棋をなだめすかし、騒動はおさまった。

・一方、柳五児は母親から茯苓霜を貰い、いつも世話になっている芳官にも分けてあげようと思い立つ。宝玉の部屋近くまでやってくると、春燕を仲介に茯苓霜を渡す。

・帰り道、柳五児は林之孝のかみさんと女房達に出くわす。
「あんた、こんな遅くに何してるの。患ってるんじゃなかったの」
「ええと…ここ数日は体調がいいので、ちょっと園内を散歩してたんです。今は、お母様に言われて宝玉様のお部屋に物を届ける最中だったんですけど…」
「そりゃおかしいね。私はあんたの母とさっきすれ違ったばかりだよ。お前を使いに出したなら、母親が私に言わないはずがないだろうに」
「あの、それは…母から朝のうちに届けるよう言われたんですけど、あたしが忘れていたものですから…」
 五児の怯んだ様子に、疑いの色を濃くする老女達。折しも、王夫人の部屋から幾つかの品物が消え失せており、誰かが盗んだのではないかと騒動が起きていたところだった。さらに突き詰めてみれば、盗まれた玫瑰露の瓶が厨房にあるではないか。柳五児は芳官から貰ったのだと訴えるが、まるで信じてもらえない。

・林之孝のかみさんに連れて行かれる五児。王熙鳳は平児からの報告を聞いて、柳母子を打ち据えてから追い出すよう指示。泣き出す柳五児は、平児へ必死に冤罪を訴える。平児はひとまず、五児を宿直の者へ預けて軟禁しておくことに。閉じこめられた五児は見張りの女房達にいびられながら、その晩を泣き明かす。

・翌日、平児は宝玉の部屋へ向かい真相を確かめる。確かに柳五児は冤罪の模様。しかし、王夫人の部屋で無くなった玫瑰露の件はどう処理すべきか。
晴雯「そんなの、彩雲ちゃんが盗んだに決まってんじゃん」
平児「それくらいわかってるのよ。でも、とうの本人が認めないで玉釧児ちゃんに罪を押しつけているんだもの」
 平児としては、彩雲に無理やり吐かせれば趙氏が黙っていないだろうし、趙氏が騒げば探春の体面に傷がつくと考え、彩雲へ追求出来ずにいるのだった。
 そこへ進み出たのは宝玉。
「そういうことなら、僕が母上の部屋から持ち出したってことにするよ。それなら誰も傷つかずに済むからね」

・話がまとまった一同。ひとまず、仲間内で白黒だけははっきりさせておこうと、彩雲と玉釧児を呼ぶ。平児から事のあらましを聞いた彩雲は深く恥じ入り、自ら進み出て言った。
「お姉さん、善人に濡れ衣を着せることはありません。趙のお部屋様に頼まれて、私が盗んだんです。日頃から奥様の持ち物はよく無くなるし、数日すれば騒ぎも収まるだろうとタカをくくっていました」
 罪を認めた彩雲に対し、意外の念に打たれる一同。しかし趙氏と探春のことがあるので、結局宝玉が罪を被るということに。

・その後、柳母子は許された。騒動が一段落すると、平児は熙鳳へ「今後は厳しくしないで、もう少し緩くやっていった方がいいかもしれません」と話をするのだった。

小言
柳五児冤罪事件の巻。主の物を盗む、といえば第五十二回で追い出された堕児の例を思い出す読者も多いのでは。窃盗行為に対する処罰の度合いは家庭によってまちまちだと思うが、賈家は基本的にそのあたりの規則が厳しめに決まっているらしく、堕児や茜雪のようにあっさり追い出されてしまった例も少なくない。結局彼女達は奴隷身分なので、どういった処罰が下るかは最終的に主の意向次第。何事も無かった彩雲や柳五児はラッキーなケースだったと言えるだろう。
ちなみに、紅楼夢と同じく下層の人々の生活描写が詳しい「金瓶梅」でも、下男や侍女がしょっちゅう盗みを働くことがある。が、主勢が堕落しているせいか殆どお咎めを受けない。

気になる人物達
柳五児…今回の主役。かわいそう。ただでさえ病弱なのに。作者の原案では、今回の一件が原因で病気が重くなり、亡くなったとされている。
柳のおかみさん…人によって態度変えすぎ。まあ彼女に限った話じゃないけど。
司棋…迎春の侍女。主が気弱でなめられがちなのをフォローするかのように、強気な性格。だが今回の大暴れはやりすぎ。あんたはヤクザか。
平児…我らがスーパー侍女。今回の活躍はまるで名探偵。仕事が出来て頭も切れる。この人のスペックに限界は無いのだろうか?
彩雲…王夫人がいない隙を見て、趙氏の頼みで物を盗んだ。でも趙氏のためというより、環のためといった方が正しい。恋は盲目。
玉釧児…彩雲から窃盗の罪を押しつけられてお怒りの模様。そりゃそうだ。
賈宝玉…珍しく男らしいところを見せた。
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