第六十三回 キャバクラじゃない! これは誕生祝いなんだ!


・夜の飲み会に備えて準備を進める襲人達。皆でお金を出し合う。夕方になると、今日は早く寝るからと宿直の人間を追いやってしまう。細工は流々。

・いよいよ飲み会! 宝玉と部屋の侍女達で卓一杯の料理と酒を囲む。酒が一巡したところで、何か遊びを始めようとする一同。晴雯は花占いをしたがったが、この人数では物足りない。それなら姉妹達を呼ぼう!

・侍女達の呼びかけで黛玉らをはじめとする人間がぞろぞろ集まってきた。早速花占い(サイコロを振って目が出た席順の人がくじを引き、そこに書かれている命令をする、というもの。現代で言うところの王様ゲームか)に興じる。
 一番手は宝釵。誰かを指名して歌わせろということで、芳官に歌って貰う。
 二番手は探春。くじを引いたら「このくじを引いたあなたは必ず素敵なお婿さんをゲットよ!」なんて文句が書かれていたので真っ赤になる。
 三番手は李紈。地味な内容なのでカットする。
 四番手は湘雲。気合いを入れて引いたくじの花言葉は「只恐夜深花睡去(夜深ければ花もまどろみませう)」
 黛玉「夜深ければ、よりも石涼しければの方がピッタリね」←前回、湘雲が石ベンチで寝ていたことのあてこすり。
 湘雲「ちぇ、あなたこそ早くお船に乗って故郷におかえんなさいよ!」←五十七回、発狂した宝玉が「黛ちゃんがお船に乗って帰っちゃう!」と言ったことへのあてこすり。
 ちなみに命令は湘雲の両隣りに座っている人へ酒を飲ませる、というものだった。座っていたのは宝玉と黛玉。しかし宝玉はこっそり芳官に飲ませ、黛玉はこっそり酒を痰壷へ捨てる(お前ら…)。 
続けて麝月、香菱、黛玉、襲人と続き、あっという間に午後十時に。これはまずいと、めいめい部屋に引き取る黛玉達。

・残った宝玉と侍女達は、またしても酒令を始めて飲ま飲まイェイ! さすがに飲み過ぎで皆やばくなっていく。
芳官「おおぅ、襲人お姉様、あたしの心臓がばくばく言ってますわ」
襲人「あんたってば飲み過ぎよ…」
 ぐったりして倒れている小燕や四児、それをしきりに呼びつけている晴雯。もはやカオス状態なので、お開きにしよう言う宝玉。皆はそれに従ってあっちこっちに寝転がる。

・翌朝、ふらふらと起きあがる宝玉達。支度を済ませると、硯の下に名刺が置かれているのを見つける。誰かと思えばあの妙玉から! 宝玉の誕生日を祝う名刺だったので、慌てて返信しようとしたが、名刺の文句が妙ちきりんなので何と書けばいいのか思いつかない。
「これは誰かの知恵を借りるしかない。宝釵さんだと妙玉さんのこういう偏屈ぶりを非難するだろうから、黛ちゃんに聞いてみよう」
 急ぎ黛玉のもとへ向かう途中、邢岫烟に出会う。聞けば妙玉のところへうかがうのだと。
宝玉「へえ、俗人嫌いの妙玉さんがお姉様を尊敬してたとは」
岫烟「尊敬というほどでは。実は昔、貧乏だった頃にあの方の境内の家をお借りしてましたの。貧賤の交わりというわけです」
 宝玉は岫烟が生来しっかりしているのも妙玉とのつき合いあってのことなのかと納得。そしてこれぞ天の引き合わせとばかり、彼女に例の名刺を見せる。
岫烟「実にあの方らしい偏屈ぶりですね。名刺に別号を乗せるなんて」
宝玉「いえいえ、あの方は凡俗の境地におられぬ方ですから」
 あくまで妙玉をリスペクトする姿勢の宝玉に、岫烟もそういうことかと納得。
岫烟「道理で、この前梅の花をあげたことといい、あの方があなた様を重んじてらっしゃるわけですわ」
 そこであれこれと宝玉にアドバイス。それをもとに、返信用の名刺を書き上げる宝玉だった。

・名刺を櫳翠庵に投げ入れて帰ってくると、芳官を男装させる宝玉。
「せっかくだから、名前も変えようぜww」
そこで、芳官を雄奴に改名する。話題が異国人の奴隷の話になったので、じゃあ異国風のニュアンスも加えようと、名前は雄奴から耶律雄奴になった。
 宝玉が芳官を男装させたのがきっかけで、湘雲や宝琴も自分の部屋にいる小役者達を男装させる。

・せっかく改名した芳官だが、周囲の人々はこのへんちくりんな呼び名に慣れず「野驢子(人を罵る時の言葉)」なんて言い方をする者も。宝玉は芳官が可哀想だと、慌てて改名。
「弗郎思牙(フランス)の地元言葉だと、金星瑠璃を温都里納(ウェンツリーナ)って呼ぶんだ。だからお前は今日から温都里納だ!」
「素敵ですね、ではそういうことに!」
 が、やっぱり呼びにくい名前なので浸透しなかった。

・そんな矢先、寧国邸の賈敬が亡くなったとの知らせ。死因はインチキな修行方を信じて実行に移していたせいなのだが、道士達は「道を開かれて昇天なさったのだ」などとアホな言い訳をする。

・葬式の準備が進められるさなか、尤氏の継母と二人の娘がやってくる。その二人の娘、尤二姐と尤三姐はどちらも別嬪さん。賈蓉は叔母筋にあたる二人にすっかり夢中になっているのだった。

小言
宝玉お誕生日回後編。羨ましい。当時の読者も賑やかな宴会の場面に憧れを抱いたのではなかろうか。同時に、宝玉がここまで目立つのも第五十七回以来だったりする。変人同士の宝玉と妙玉の何ともいえない関係、侍女へのネーミングセンスなど、宝玉の風変わりながらも愛すべき部分が沢山描写されている。
後半は賈敬の死に際して尤姉妹が初登場。今回以降の物語の牽引役であり、紅楼夢後半の悲劇の先陣を切る姉妹でもある…。

芳官の名前について
耶律雄奴…耶律は北方遼国の有名な姓。雄奴は最初、単に男の奴隷という意味でつけたのだが、「匈奴」とも発音が同じだったので、異人らしい名前にピッタリしたものとなった。かつて中華の地を脅かした強者の名をつけて得意満面の宝玉だったが、残念ながら彼のセンスについていける者はおらず。ちなみに野驢子というのはロバの意味。まあロバなんて言われたら怒るよね。
金星瑠璃…恐らくアベンチュリンのこと。古代中国では現代のように緑色のものを指すわけではないらしい。後述の温都里納が呼びにくいということで、この名前で呼ばれることがある。
温都里納(温都裏那とも)…名前の由来は諸説あり。まあ例によって宝玉の出任せである。「海西弗郎思牙」と宝玉は言っているが、西班牙(スペイン)とも法兰西(フランス)とも、はたまた温都だから印度(インド)だろうとの説も。

気になる人物達
賈宝玉…素敵な女の子達に誕生日を祝って貰うなんて、男冥利に尽きる。妙玉へのリスペクトには彼の優しさを感じる。
林黛玉…要所要所で毒舌を発揮したり、罰杯を痰壷へこっそり捨てたり、相変わらずの性格の悪さ。こういうとこ、一部の読者には嫌われるんだろうな。
薛宝釵…占いでは無難なくじを引く。こういうところでも真面目にやり過ごしてしまうあたりは流石。それにしても、妙玉の名刺アドバイス相手として避けられるあたり、宝玉も宝釵の気性がよくわかっているようだ。
迎春・惜春…誕生祝いに誘われなかった。不憫。惜春は子供だからいいけどさ。
賈探春…占いで「良縁あり」と出た。実際この後…。
史湘雲…占いの結果を黛玉にからかわれる。
晴雯…誕生祝いの賑わし役。後半はすっかり飲んだくれている。オヤジか。
襲人…真面目な彼女も、誕生祝いでついつい羽目を外し、一曲歌ってしまった模様。何それカワイイ。
春燕・四児…宝玉の侍女見習い。終始子供っぽくはしゃいでいる。
妙玉…宝玉の誕生祝いに自分の名刺を送る。何ともおくゆかしいが、常人とかけ離れたセンスのせいで宝玉を困らせた。普段から「漢から宋まで古人の詠む詩にはろくなものがない」などとというのが口癖らしい。それ、全部ダメってことじゃん!
邢岫烟…妙玉とは幼い頃からのつき合いだったことが判明。彼女の人となりを誰よりも理解している。あんな偏屈人間と仲良くなれるなんて岫烟さん素敵。
芳官…宝玉のお気に入り。男装したり、改名ごっこをして遊ぶ。
賈敬…唐突に昇天した。たぶん、初読の方々にはどーでもいいことだろうけど。
尤氏…葬式に大わらわ。役立たず。
尤二姐・尤三姐…今回が初登場の尤氏の義妹。次回以降、彼女達の悲劇的な物語が繰り広げられる。
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