第七十四回 大観園・大捜索・大喧嘩


・柳のかみさんは妹が賭博をやっていたがため、自分も共謀していたと疑われる羽目に。急ぎ賈宝玉のもとへ罪を晴らしてくれるよう懇願。宝玉はどうせなら迎春の乳母も一緒に許してもらおうと、迎春の部屋へやってきた。

・平児は王住児のかみさんへ、無くなった品物を持ってきたら許してやることを告げる。仰せのままに、と答える王住児のかみさん。

・それから、煕鳳のもとへ戻った平児。探春に詰問されたことは伏せ、煕鳳に見舞いの言葉を言っていたとだけ伝える。
煕鳳「それはあちらに感謝しなきゃね。ところであんたもいつか私に言ったでしょ。あんまり下の人間に厳しすぎない方がいいってね。私も気苦労を重ねて目が覚めたわ。もううるさい連中は放っておいて騒がせておきましょう」
 すると賈璉が入ってきて、邢夫人が銀子二百両欲しいと騒いでいることを告げる。煕鳳はまたしても自分の首輪を質入れして、その額を出してやるのだった。

・一体誰が鴛鴦受けだしの件を聞いていたのか相談していると、血相を変えた王夫人が部屋にやってきた。侍女達を追い出し、ある品物を煕鳳の眼前へ突き出す王夫人。
「見てごらん!」
 それは香袋で、裸の男女が抱き合った絵が書いてある(言うまでもなく、前回馬鹿姐やが拾ったもの)。
「これはどちらで拾ったものです?」
「どこで拾ったかですって! こんな品物が、園の中に落ちていて、ご隠居様の侍女が拾ったっていうじゃないの! あんたが置き忘れたんでしょう! 屋敷中でこんなものを使うのはあなた達意外にいないはずよ!」
 王煕鳳は慌てて弁解する。それを聞いて、ようやく自分が間違っていたと考え直す王夫人。
 しかし、香袋自体がどこから出たものかを突き止めずにはいられない。屋敷の気風にも関わってくる。すぐさま周瑞のかみさんをはじめとする女房達を集め、園内を調べさせることに。中でも女房の一人、王善保のかみさんは園内の侍女達を忌み嫌っていたので、捜索の件になって俄然張り切り出す。
「奥様はご存じないかもしれませんが、あの侍女どもはみんなお高くとまっておりまして、何か気に入らぬことがあるとすぐお嬢様へ告げ口するんですよ。特に宝玉様のお部屋の晴雯という奴は、自分が可愛いのを鼻にかけて威張り散らしているのでございます」
 それを聞いて不愉快になる王夫人。
「まあ、私はそういう輩が大嫌いなのだよ。愛しい宝玉がその小悪魔に誘惑されては大変だわ」
 すぐさま遣いを出して晴雯を呼び出す。
 折しも、晴雯は具合が悪く、寝間着のまま王夫人のもとへ連れ出されてきた。そのだらしない格好を見て、王夫人も爆発。
「お前、いつもそんなだらしない姿をしてるのかい! 一体誰を誘惑するつもりなの!」
 利口な晴雯は王夫人のただならぬ雰囲気で、すぐに誰かが自分の悪口を吹き込んだのだろうと察し、言葉巧みに弁解する。が、王夫人はなおのこと晴雯に嫌悪感を抱く。
「もういいよ。お前はもとはご隠居様の侍女だそうだから、明日にでも宝玉の部屋から出してもらうことにするよ!」

・晴雯が出て行ってから、さらに愚痴をこぼす王夫人。
「まったく、私の目も節穴ですね。あんな色ガキが他に何人いることやら!」
「奥様、お任せください。わたしめが人を連れて園内を捜索しますから。必ずあの香袋の持ち主も明らかになりましょう」
 煕鳳は王善保のかみさんのやり口が気に入らなかったものの、王夫人がすっかりその気なので反対も出来ず、やむなく園内捜索を取り仕切ることに。

・夜になって一同は出発。
 まずは宝玉の部屋。襲人達の荷物を改めるが、怪しい物は何もなし。
 次に薛宝釵の部屋…といきたいところだが、何せ彼女は親戚の家、さすがに部屋捜索はまずかろうと、王煕鳳は王善保のかみさんに言い聞かせて立ち去ることに。
 続いて黛玉の部屋。紫鵑の部屋から男物の扇子が出てくるが、宝玉が小さい頃黛ちゃんにあげた物だった。というわけでここも怪しい物は無し。
 そして探春の部屋。何と彼女は門前で待ちかまえていて、しかも侍女達の荷物を開けっぱなしにした状態。素知らぬ様子で煕鳳に尋ねる。
「今晩は何事ですか?」
「実は物が無くなったのよ。犯人が見つからないので、いっそ部屋検めをしようということになったのだけど」
 せせら笑う探春。
「あら、そうですか。私達はみんな泥棒扱いということね。お調べするなら私の荷物からどうぞ。私が泥棒のボスなんですから」
 煕鳳は愛想笑いを浮かべながら、必死に探春をなだめる。すぐさま箱のふたを閉める平児や豊児。
「私の荷物を探すのはいいですけれど、侍女の物を探すことは許しません。私は侍女の持ち物も全部把握してますから。納得できないなら、奥様にでも言いつけてくださいな。罰でも何でも受けます。大体、こんな風に自分の家を捜索したら、そのうちお上からの本当の捜索を受けるようになりますよ。あの甄家もそうだって聞きましたしね。大きな家っていうのは、外からじゃなくて中から滅んでいくものなんだわ!」
 探春のお説教に反論の言葉も無い煕鳳。周瑞のかみさんんに促されて立ち去ろうとすると、さらに探春が一言。
「もう探し尽くしましたね? 明日になって来ても、今度は探させませんから」
 煕鳳や女房達は探春の気持ちや立場を考え、自分達は探し尽くしたとはっきり答える。が、王善保の女房だけは違った。「みんな何を遠慮してんだか。相手は妾腹じゃんww ここは自分の忠勤ぶりを見せるチャンスww」そこで進み出るなり、探春の身体をべたべた探った挙げ句、得意げに高笑い。
「お嬢様のお体もきちんと調べさせていただきました。確かに、何もありませんね!」
 次の瞬間、バチンと平手打ちの物音。ブチ切れた探春が王善保の女房をぶったのだった。
「あんた、何様なのよ! 私は、奥様方のお顔に免じてあんた達を立ててやってるのよ。まさか私まで、あんたのところの迎春お嬢様と同じお人好しだって? なめられたまま黙っていると思ったら大間違いよ!」
 怒鳴りながら、自分で着物を脱ぎ始める探春。煕鳳を引き寄せて、さあ探してくれと泣き叫ぶ。煕鳳もこれにはたじたじ。すぐに探春の着物を直し、王善保の女房を叱りつける。が、この茶番に探春も冷笑。
「私に甲斐性があったら、頭をぶつけて死んでいるわ。どうして召使いなんかに身体を探られなきゃいけないの!」
 懲りない王善保の女房は、ぼそっと一言。
「あ~、こんな目に遭うなんてマジ災難。もう奥方様に言って田舎帰るしかねーわ。こんなババァいても役に立たないし」
 探春がこれを聞き逃すはずもない。
「あんた達、今のが聞こえなかったの? あんなのに好き放題言わせて、まだ私と戦わせようってわけ?」
 すぐさま探春の侍女達が、王善保のかみさんを怒鳴りつける。煕鳳は探春をなだめ、ようやくその場を引き上げる。
 今度は李紈の部屋。生憎彼女は病気で寝込んでいた。侍女達の荷物を調べるが、やはり何も無し。
 続いて惜春の部屋。幼い惜春は煕鳳や女房が大挙して訪れたのでビックリ。それを慰めながら部屋を調べる煕鳳達。すると、侍女の入画の持ち物から金銀の包みや男物の帯が。必死に弁解する入画。
「珍の旦那様がうちの兄にくれたんです。ただ、兄は自分のところに置いておくと酒好きな叔父夫婦に使われてしまうからと、私に預けていたんです」
 一方の惜春はすっかりヒステリー気味。
「あたし、知らなかったんです! まさかこの子が規則を犯していたなんて。とにかくこんな子はもう打って追い出してください!」
 煕鳳は惜春を慰めつつ、入画を叱りつける。入画本人の持ち物ではないにせよ、園内へ物を勝手に持ち込んだ以上、罪は免れない。惜春はとにかく追い出せの一点張り。とりあえずその荷物は周瑞のかみさんに預け、部屋を出た。
 そして迎春の部屋。さっそく侍女の部屋を調べる。すると、司棋の箱から男物の靴下と手紙が。もちろん手紙は司煕の従兄・藩又安からのラブレター。
 煕鳳はそれを読むなり、笑い出してしまう。そしてみんなの前で読み聞かせ。
 実は司棋、王善保のかみさんの孫にあたるのだった。屋敷の侍女どもをギャフンを言わせてやるぜ!と意気込んでいたら事件の犯人が自分の孫だったので、すっかりショックを受ける王善保のかみさん。

・一応、事件は解決したが、煕鳳は寝床に入るなり体調が悪化してしまう。結局、司棋の処分は先送りに。

・園内にやってきた尤氏は、ふと惜春に呼ばれる。何事かと思えば、入画を引き取って欲しいというのだ。
惜春「あたしのところだけ、こんな恥知らずな真似をする侍女がいたんですもの。打つなり殺すなり、とにかく追い出してください。あたしの知ったことじゃありませんから」
 泣き出す入画。尤氏も必死に惜春を説得。
「まあまあ、この子は小さい時から仕えているのだし、大目にみてやってあげなさいよ」
 しかし、惜春はまるで言うことを聞かない。次第に尤氏もイライラ。
「ふん、道理でみんながあなたのことを幼くって物がわかってないと言うわけだわ。物事の善し悪しも軽重もわきまえていないんだから」
「確かにあたしは幼いですけど、今あなたがおっしゃったことは年齢と関係ありません。本も読まず字も知らないのに、どうしてあたしが物もわからないなんて言えるの? どうしてあなた達の巻き添えで、あたしまで汚れた人間扱いされなければいけないの?」
 尤氏は惜春の主張に自分の痛いところを突かれ、腹を立てながらその場を立ち去るのだった。

小言
園内大捜索の回。これまで続いてきた侍女と女房の対立がいよいよ極まり、今回の騒動になった形。ちなみに、探春の「身内を疑って捜索していたら、そのうち外から捜索を受けるハメになる」という台詞があるが、この後の回で本当に外から捜索を受けることになるんだから笑えない。
探春や惜春はいずれもお嬢様の身分、屋敷の中ではそれこそ一番大事にされている存在。そこに召使いの人間がズカズカ乗り込んできて部屋を荒らされ回ったら、怒らないはずがないのだ。
ちなみに大捜索で規則を犯していたのは惜春・迎春の部屋の人間。主筋のだめっぷりが下の人間にも伝染している模様。惜春が今回の件でいきり立つのも、自分が寧国邸の堕落した連中と一緒にされたくない気持ちがあるからで、後半の意地っ張りな主張にもそれが現れている。
そのほか、物語の伏線として、甄家が家内捜索を受けたことが探春の台詞で触れられている。

気になる人物達
王夫人…今回の元凶。黛玉と違い、全然可愛くないヒステリー。晴雯への仕打ちや園内捜索の後押しで、読者の好感を順調に下げている。どこまで落ちていくつもりなんだ。
王熙鳳…王夫人の命令で園内捜索。自分にも疑いがかかっていたので手抜きは出来なかった。上から下から責められ、中間管理職は辛いよ。
王善保のかみさん…イヤなババァ。鼻息荒く園内を捜索した挙げ句、犯人が自分の孫だったという自業自得。秦顕のかみさんといい、司棋の一族はこんなんばっか。
晴雯…侍女組の中でも、悪い方向で目立ってしまっていた彼女。現代の我々からしたら、素直で口達者な可愛い子、っていう認識で終わりなんだけれども、当時からすればこんな娘の存在自体が御法度だろう。
賈探春…園内捜索騒ぎにブチ切れ。相変わらず行動がサバサバしていて格好良い。王善保のかみさんを打った直後の台詞では、何気に大人しい姉貴をディスっている。
司棋…姉さんも迂闊でしたね。もう逃げ道無し。
藩又安…司棋の従兄。逢瀬がばれて逐電中。名前の元ネタは中国古典における色男の代名詞「藩安」からというのが有力。ちなみに本名ではなく「現代版藩安」的なあだ名ではないかとも。
賈迎春…前回の乳母に続いて、今回は侍女が規則違反。もうズタズタで立場がない。可哀想過ぎるよぉ。
賈惜春…自分の侍女が規則を破っていたことに大ショック。取り乱した末に入画を切り捨てる行動に出た。いくらなんでも酷いんじゃないの、という声があるかもしれないが、実は惜春の立場を考えると別に不自然でもない。秦可卿や尤姉妹の不倫自殺など、寧国邸は色絡みの事件が多く、その噂も外に広く伝わっている(柳湘蓮の言など)。
周囲からやたら幼いと強調される惜春だが、実際は寧国邸の内情をよくわかっており、彼女はそうした汚い人々と一緒にされるのを嫌がっている。自分の侍女が男の品物を部屋に持ち込んでいた、なんて噂が広がれば、惜春自身も噂の種になることは避けられないから、ムキになって侍女を追い出しにかかったわけ。
尤氏…尤姉妹の件など、後ろ暗いところがあったことを惜春に突かれるが、相手を子供扱いして逃げる。情けない。
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