第九十四回 海棠「お前ら、気づけっ……! 栄華はもう終わりだ…これは、予兆ッ…!」


・賈政は役所から帰ることが出来ず、賈芹の処罰は全て賈璉の手に委ねられた。賈璉はそこで王夫人に相談。
王夫人「大体、あの小尼達(出家した娘役者達のことね)はもともと暇を出す予定だったのよ。それをお前の嫁が残しておきましょうなどというからこんな事件を起こしてしまったんだわ。尼達は本籍を調べて一人残らず屋敷から出しなさい。あと、芹はお前の方できつく叱っておくようにね」
 万事承知した賈璉は、頼大に言いつけて尼達を屋敷から追い出してしまう。街のよからぬ人間は、賈家から娘達が暇を出されたと聞き、自分のものにしてやろうと企むのだった。その後、娘達の運命を知る者はいない…。

・同じ日、紫鵑が鴛鴦と話していたところに、二人の婦人が通りかかった。何でも、自分達の屋敷の令嬢を宝玉の嫁にと宣伝するため、足繁く賈家へ通っているらしい。鴛鴦からその話を聞いて、呆然とする紫鵑。
「世の中には沢山の殿方がいるのに、あっちの方もこっちの方もみんな宝玉様を狙ってるだなんて。それにうちのお嬢様も…近頃の病気も、間違いなく宝玉様のことで思いつめたせいだわ。宝玉様も何だかはっきりしないお方だし。ああ、このままお嬢様の片思いで終わっちゃうのかな…。ああもう、やめやめ! 私が余計な心配をしてもしょうがない。とにかく、精一杯黛玉様にお仕えしよう!」
 あれこれ考えた末、すっぱり気持ちを決める紫鵑だった。

・そんな矢先、園内で枯れていた海棠の花が、どういうわけか一斉に咲き出したという話が広まる。これを聞きつけ、史太君や奥方一同、さらに大観園の姉妹も何人か顔を揃えていた。史太君、王夫人、邢夫人、李紈はこの海棠の咲きっぷりを吉兆とみなしたが、一人探春だけは懸念を抱く。「花が時節外れに咲くなんて、悪いことが起きる前兆に違いないわ…」
一方、古人の話を持ち出して、海棠は吉兆のしるしだと主張する黛玉。何でそんなことを言ったのかと思えば、吉兆というのは宝玉と自分の婚礼に違いないと思い込んでいたから(何故そうなる?)。 せっかくだからと、花見を始める史太君達。宝玉や賈環は余興に詩を書いて、場を盛り上げるのだった。

・部屋に戻ってきた宝玉だが、襲人は彼の首に通霊宝玉がかけられていないことに気がつく。海棠を見に行く時、慌てて出て行ったので身につけていかなかったのだ。そこであちこち探してみたが…見つからない。
 途端に動転する襲人。何せあの通霊宝玉は、宝玉が生まれ落ちたその日からずっと肌身離さず持っていたものなのだ。
 そんなに焦ることないじゃん、という呑気な宝玉だが、襲人にしてみればそうもいかない。早速部屋で留守番していた麝月や侍女見習いを問いただし、皆で隅から隅まで探しまくる。
 しかし、結局玉は出てこない。話を聞きつけ、李紈や探春なども宝玉のもとへやってくる。ここまで探しても出てこないのなら、もしかすると誰かが盗んだのでは?と疑う一同。
李紈「こうなったら仕方ないわ。皆の着物を脱いで確かめましょう」
探春「どうしてそんなくだらないことをしなくちゃいけないんです! あの宝玉を盗んで得をする人がいるとすれば、弟の環ぐらいでしょう」
 そこで平児が賈環を連れてきて、遠まわしに尋問。しかし、馬鹿ではない賈環は自分が疑われたと知って憤慨する。宝玉もイライラしてくるし、襲人にいたっては泣き出す始末。さらに趙氏までがやってきて、案の定ギャーギャー騒ぎ出す。
 
・ついに王夫人も登場。その威光を恐れて、宝玉の侍女達は誰も口を開けない。王夫人の命令で、ようやく襲人が涙ながらにことの次第を語る。王煕鳳は病気が重かったが、事件が事件なのでふらつきながら駆けつけてきた。一同相談のすえ、ひとまず使用人達の外出禁止、屋敷内の徹底捜索をすることに。使用人頭の林之孝は、街に有名な占い師がいるので占って貰えばどうかと提案。その場にいた邢岫烟は、妙玉が降霊術を出来ると知っていたので、早速彼女のもとへ相談へ向かう。
そんな折、若党の茗烟が「玉が見つかりました!」という報告を入れてきたのだが…。

小言
通霊宝玉紛失事件の回。何といっても、紅楼夢のストーリーは下界に降りた通霊宝玉が見聞した出来事を後にまとめたものであり…ってご本人が消えたら物語も書けないじゃん!という、一見すると設定破綻のような事件が起きる。まあ通霊宝玉は霊験あらたかな代物だし、たぶん自分から姿を消して、賈家の人々には見えないところから様子をうかがっていたんだろう。うんうん。
また、冒頭では海棠が咲き誇る珍事が発生。聡明な煕鳳や探春の予感も、はしゃぐ史太君らの前では口には出せず。この海棠は以前賈芸が持ってきたもので、晴雯の死と同時に枯れてしまっていた。

気になる人物達
王夫人…娘役者達の醜聞を耳にすると、早速追い出してしまう。路銀まで与えたので使用人達から「さすが奥様慈悲深い!」なんて褒め称えられていたが、正直兎を獣のいる荒野へ放すような行為だと思うんだけど。娘役者と女同士達のその後は書かれていないが、どう考えてもいい終わりは想像出来ない。通霊宝玉紛失時は、事件現場に現れただけで皆を威圧。何だかんだで家庭内の権力は絶対的なものがある。
紫鵑…主のために頑張ろうと決意を新たにする侍女の鏡。素敵過ぎる。
林黛玉…で、その主。紫鵑に対しても相変わらずヒステリーな態度。海棠の咲きっぷりを吉兆だと思い込み、しかも宝玉との結婚が近いのだと勝手に解釈。思考が理解デキマセン!
賈探春…いつでも聡明な賈家の三女。通霊宝玉紛失事件では、真っ先に弟を糾弾する。毎回身内に厳しいよね。
王煕鳳…病気のため海棠の花見に参加出来なかった。また、平児に赤い緞子を持って行かせ、それを花にかけることで、吉兆の印ということに見せかけようとした。
李紈…通霊宝玉紛失事件では、(周囲が女しかいないという状況だったとはいえ)着物を脱いで潔白を証明しようと発言。なんだそのストリップは。善人だけどこういう時の対処は褒められたものではない。
薛宝釵・薛宝琴…お祝いが控えているので花見に参加せず。嫁入り前の生活ってほんとつまんなそう。
史湘雲…叔父の転勤で実家に帰省中。彼女がいないとお話も寂しい。
賈赦…海棠の咲きっぷりを見て何を想ったのか「こんな花切った方が良くね?」などと言い出す。当然、史太君にたしなめられる。相変わらずの空気読めないジイサン。
賈宝玉…海棠を前にして、晴雯のことを思い出す。その後、部屋に戻ったら通霊宝玉紛失。この回はまだまともだが…。
賈環…詩の読みっぷりで史太君にダメ出しされ、通霊宝玉紛失では実の姉から真っ先に疑われる。日頃の行いのせいとはいえ、ちょっと可哀想。
趙氏…同情の余地がある息子と違い、こちらは救いようがない。
平児…いつでも大活躍な我らがスーパー侍女。しかし通例宝玉紛失事件の前には、さすがの彼女も力及ばず。
襲人…通例宝玉紛失で一番パニクッているお人。相変わらず突発的なトラブルに弱いようだ。
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