第百九回 夢の中でも会え…ない!


・襲人から宝玉が大観園を訪ねた話を聞き、宝釵はわざと寝床の宝玉に聞こえる声で話し出す。
「人というのは、死んでしまえば生前と同じではないのです。生きている人間が想い続けたところで、死んでしまえば届くことはありません。特に黛玉さんにしてみたら、もともと俗人嫌いなところがあったのだし、死んだ以上生きている人々の前へ姿を現すことなんかありえないでしょう」
 襲人もすぐに相手の意図を察して、相づちをうつ。
「まったくですね。黛玉様の魂がまだ園内にあるなら、一度くらい私達の夢枕に現れるはずですものね」
 考え込む宝玉。
「確かにその通りだ。僕がこんなに想っても黛ちゃんは現れてくれない。きっと仙人になったから僕のような凡人と会ってくれないんだろう。そうだ! 表の間で寝ることにしたら、黛ちゃんにも僕の真心が通じるかもしれないぞ! もしこれで黛ちゃんが会ってくれなかったら、その時は諦めよう」
 奥さんと妾の話を斜め上の発想で解釈した宝玉、その日は表の間で寝ることに。念入りにおまじないして夢で黛玉と会えるよう祈ったが、結局いつもより快適にグースカ眠るだけで終わった。

・翌朝、がっかりして長恨歌の文句(楊貴妃の死を嘆く玄宗の一節)を呟いちゃう宝玉。それを聞いた宝釵は黙っていられない。
「またおかしなことを言って! 黛玉さんが聞いたら怒りましてよ」
「違うんですよぉ。奥の間で寝るつもりだったんですけど、つい表で寝ちゃって…」
「あなたがどこで寝ようと、私に関わりがありまして?」

・迎春が家へ帰ることになった。待っているのは凶暴な夫。ため息をつく一同。迎春は悲しみを堪えて皆に挨拶をする。
史太君「まあお前も悲しみ過ぎないことだよ。ああいう男に嫁いだのはもうどうしようもない。いずれまたお前をうちに呼ぶから」
迎春「いいえ。わたくし、きっともう戻ってくることはありませんわ」

・薛未亡人は宝釵に邢岫烟のことを相談。邢夫人のもとで苦労させるよりは、薛蝌とくっつけてしまった方がいいのではないかと。宝釵に否やは無かった。

・こちら宝玉、黛玉と夢の中で会いたくて仕方ない。そこでおずおずと宝釵に話しかける。
「昨日表の間で休んだらグッスリ眠れたから、今日もそうしたいんだけどいいかな?」
 賢い宝釵は宝玉の意図を読んでいたが、あえて反対しない。
「お休みになりたければどうぞ。私は止めませんから」
 表で休むとなると妻妾達も世話がしにくいので、麝月と柳五児が宝玉のそばにつくことに。例によっておまじないをしてから寝床に入る宝玉。が、今日はどういうわけか眠れない。そのうち、晴雯とそっくりな柳五児のことが気になり、彼女をそばへ呼んだ。見れば見るほど晴雯そっくり。
「ねえ、君は晴雯と仲が良かったろ。彼女のお見舞いにも行ったのかい?」
手を握り締めて侍女を引き寄せる宝玉。柳五児はびっくりしてしまう。
「若様、やめてくださいな!」
「晴雯は臨終で、浮名を流されるくらいならいっそ心を決めておくべきだった、って言ったんだよ。君だって知ってるはずだ」
「あの方がおっしゃったデタラメを、どうして私が知ってなきゃいけないんです」
「そんな言い方ないじゃないか。晴雯があんまりだよ」
「もう遅いですし、お休みなってはいかがです?」
「私は今夜仙人に会うつもりなんだ」
「は、はぁ…。どんな仙人にお会いになるんですか」
「聞きたいのかい。じゃあ私のそばにおいでよ」
言いながら、五児を寝床へ引っ張りいれようとする。いかれた宝玉の様子に、五児はドン引き。その時、奥の間で宝釵の咳払い。宝玉と五児は慌てて休みにつくのだった。

・翌日、夜中の騒ぎについて五児を詰問する宝釵。どうも宝玉は未だ黛玉への情に取りつかれている様子。彼を正気に戻すためには、こちらも情を以て接するしかない。そう考えて、わざと宝玉に表の間で休むよう促す。果たして、自分の行為に負い目を感じていた宝玉はその日、結婚してから初めて宝釵と寝床を共にしたのだった。

・史太君は先日の誕生祝から体調が悪化。医者を呼ぶも回復の兆しが無い。心配する賈家一同。不幸はさらに続き、迎春が亡くなったという知らせ、また史湘雲の夫が急病にかかり命の瀬戸際にいるとの知らせ。皆の気持ちは沈んだ。

・後日、いくらか具合の良くなった史太君は家族を呼び寄せるのだったが…。

次回を待て


小言
ようやく財産没収話も一段落…したかと思えば、史太君の病気をきっかけにまたしても不幸の絨毯爆撃。そんな現実から逃げるようにひたすら黛玉の面影を追い続ける宝玉の姿も読んでいて辛い。それにしても、迎春や史湘雲を襲う悲劇は前回からの経過を考えるとかなり強引な展開。

気になる人物達
賈宝玉…なんかもう、変な宗教にどっぷり浸かっちゃった人みたいになってますね。
薛宝釵…夫が仙女の色香に惑わされているから、自分の色香で以て正気に戻そうという発想が凄い。でも、こんな形で初めての床入りだなんてきっと嫌だったろうなあ。
襲人…宝釵とは気の合う妻妾コンビ。しかし宝釵の前ではスペック差に損をする日々。
麝月…最近はすっかりツッコミ役になっている。
柳五児…せっかくお部屋勤めになったのに、宝玉のいかれ話を聞いて、すっかり気持ちがさめてしまう。これまでも述べてきたように、曹雪芹の原作では中盤で亡くなる予定だった。彼女の物語における役割は、後の晴雯に起きる悲劇の暗示だったという説がある(容姿が似ていること、冤罪で不幸に見舞われていることなどの共通点がある)。その五児が現行本において、晴雯の身代わりとしての役割を与えられているのは興味深い。
賈迎春…不吉な言葉を残して泣く泣く帰っていく。みんな彼女に冷たすぎるよぉ! そして今回でいきなり退場。原因は夫の虐待による衰弱死。ちゃんと原版の末路に沿っているとはいえ、描写が少ないのが悲しい。
史湘雲…夫が突然危篤状態に。幸せな結婚生活も僅かな間のことだった。これまた遣いの人間が知らせを持ってくるだけなので、詳しい状況は不明。
邢岫烟&薛蝌…ようやく結ばれるようになったようだ。よきかなよきかな。
史太君…急病にかかり、もはや余命幾何もない状態に。
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