第百十三回 俺の愛する人は今も昔も…変わっちゃいねえ!


・趙氏は数日狂った挙げ句に亡くなってしまう。

・趙氏の死を受けて、使用人達は王熙鳳の死も近いのではと噂する。とうの熙鳳は奥方連中や夫からの見舞いも無く、どんどん弱っていった。ある時、枕元に尤二姐が現れて語りかける。
「お久しぶりです、お姉様。わたくし、妹としてずっと気にかけておりましたのよ」
「ああ、あなたなの…私の以前の仕打ちにも関わらず、お見舞いにきれくれたのね」
 すると、横で看病していた平児の声。
「奥様、どうなさいましたの?」
 煕鳳は強がってごまかしにかかるのだった。
「いえね、ちょっとうわ言を口にしただけよ。それよりお前、腰を叩いてちょうだいな」

・そんなところへ、劉ばあさんが久方ぶりの来訪。賈家の没落を聞いて駆けつけてきたのだった。平児は煕鳳が病気なので面会を断ろうとしたが、王煕鳳が熱心に会いたがるので仕方なく通す。
劉ばあさん「これはこれは若奥様! ご機嫌はいかがでございます?」
王煕鳳「お婆さん、あなたもお元気だった? どうしてこれまで会いに来てくれなかったんですの?」
 劉ばあさんは、病ですっかり痩せこけた王煕鳳の姿に痛ましい思い。連れてきた孫娘の青児に挨拶をさせる。そこへ煕鳳の娘・巧姐もやってきて小さな二人娘は意気投合。劉ばあさんは田舎の暮らしや巧姐の縁談などの話をペラペラ話しまくるが、煕鳳の体調を気遣った平児によって強制キャンセル、席を外す。

・平児は賈璉の姿を見かけたが、何やら酷く怒っている様子。聞けば先日の強盗騒ぎで葬儀費用が不足しているが、用意できる宛てが無いのだとか。八つ当たりする賈璉に言い返す平児。そんな折り、煕鳳の具合が悪化したとの知らせ。二人も喧嘩をやめて駆けつける。劉ばあさんは願掛けをすればきっと良くなると根拠のないことを言い出すが、藁にもすがる思いの煕鳳は二言で承知。さらに巧姐の面倒を見てくれるよう劉ばあさんに託すのだった。青児を残し、出かけていく劉ばあさんだったが…。

・宝玉は妙玉の失踪を知ってひたすら嘆いていた。襲人らがいくらなだめても効果が無い。そんな夫に対し、薛宝釵は真っ向から正論で彼を諭そうとする。
「蘭さんは葬儀の間からもずっと勉強に励んでいたと聞きますわ。ご隠居様も殿様も、あなたの将来をとても気にかけておりますのに、あなたときたらどうでもいいことにばかり心を向けておいでです。こんなことでは、あなたにお仕えしている私達の未来は一体どうなるのですか?」
「別にどうでもいいことなんか考えてませんよぉ~ただうちが傾いてきたのが悲しいだけですってばぁ」
「お殿様も奥様も、あなた様が一人前になってくれるようひたすら望んでいるのです! それなのにあなた様自身は、そのような調子でいいとおっしゃるの?」
説教されるなり逃げ出して寝込む宝玉。まさにゴミクズ。人が少なくなったところで、ふと考えたのは紫鵑のこと。
「そうだ! あの子が僕の部屋へ来てから、まだ一度もまともに話をしていない。すっかり放ったらかしにして申し訳ない気もする。あの子が僕に冷たいのは、きっと黛ちゃんと結婚しなかったのを未だ根に持っているからだろうか。ああ、お前のような賢い子が、どうして僕の気持ちをわかってくれないんだ!」
そこで夜に皆が休んだ隙をうかがい、紫鵑のいる下部屋を訪ねる宝玉。
「紫鵑ちゃん、起きてるかい?」
「若様、何の用事でいらっしゃいましたの? もう真夜中ですし、お話があるなら、明日にしてくださいな」
「別に長話をするつもりじゃないよ。一言聞いてほしいんだ」
 そう言いながら、何も言わずに立っているだけの宝玉。苛立って自分から声をかける紫鵑。
「立ちんぼうで、何を黙っていらっしゃるんです? じらして弄ぶおつもりですか? 以前にも人をじらした末に殺しておしまいになったじゃありませんか! それでもまだ足りず、もう一人同じような目に遭わせたいんですか?」
「紫鵑ちゃん、昔の君はそんな人じゃなかったはずだ! どうして優しい言葉をかけてくれないんだい? 確かに僕は汚物だ! 本物のカスだよ! でも僕に罪があるならせめて教えておくれ。そうすれば死んだっていいんだ!」
「お話とはそのことですか? それについては、私の主人がまだいらっしゃった時分に、散々話し尽くしましたわ。私のことが気に入らないのなら、奥様に話して追い出してくれればいいんです!」
 そんな矢先、割って入った別の声。麝月だった。
「まったく、一人が謝っているかと思えば一人がはねつけて、何をやってるんですの?」
「私はずっと、お引き取り下さるようお話してたんです!」
 怒り出す紫鵑、泣き叫ぶ宝玉。
「ウオオオオッ、もう駄目だっ。僕の気持ちは、お天道様にしかわからない!」
 麝月はそんな主を部屋へ連れ帰る。部屋では宝釵が狸寝入り。襲人がそばにやってきて、宝玉を寝かしつけるのだった。

・一方の紫鵑。宝玉の来訪で気持ちが揺れ動き、亡き主のために一人悲しむのだった。

小言
王煕鳳の最期前編。侍女組・尤二姐・劉ばあさんなど、彼女を取り巻く人物が総登場する。弁も立ち頭も切れ、家庭内の中心として君臨していた王煕鳳。その彼女ですら、最後には家庭という権力に押し潰されてしまう。黛玉や迎春のようなキャラクターと立場は違えど、彼女もまた封建主義下の女性の弱さを体現しているのだ。あんまり語っちゃうと次回のネタが尽きちゃうから、煕鳳についてはこのへんにしておくとして、後半は相変わらずの宝玉が描かれる。もはやニートそのもので上っ面だけ読むとイライラして仕方ないんだけれども、彼もれっきとした封建主義の被害者である。家庭の偽善によって最も愛していた人を奪われてしまったのだから。けれど、彼はそうした鬱屈を誰とも共有出来ない。政略結婚を仕向けたのは両親や親戚連中だし、薛宝釵や襲人はその協力者。だから内心を打ち明けられるはずもない。今回は、紫鵑が同じ被害者の立場だからだと思って声をかけたのだろうが、やはり彼の内心は理解して貰えないまま。だからニートをやっててもいいのかという話は別として、宝玉も未だ悲劇の真っただ中にいるのだ。

気になる人物達
王熙鳳…ほんとに憑りつかれてるんじゃないかというくらい幽霊に遭遇している。もはやその命も長くない…。
平児…主のため健気に尽くす。劉ばあさんの遠慮なり話しぶりには気が気でなかった様子。
尤二姐…まさかの再登場。相変わらずのお人よし。まあ確かに煕鳳を恨んで死んだわけじゃないけど。
小紅・豊児…王熙鳳の侍女コンビ。主の病気にいてもたってもいられない様子。小紅は煕鳳とのなれ初めもあるし、もっと活躍して欲しかったところ。
巧姐…煕鳳の娘。歳の割にかなりしっかりしており、劉ばあさんが婚礼の話を始めるとすぐに席を外した。
劉ばあさん…久方ぶりの登場。賈家の援助のおかげで以前より豊かになった様子。
青児…劉ばあさんの娘。田舎っ子。
王夫人・邢夫人…絶対煕鳳に死んで欲しいと思ってるだろアンタラ。
趙氏…突然の発狂死。何の複線もないし原因不明。もしかして馬道婆の呪いか? 日頃の行いのせいか、病気中もぞんざいな扱いだった。
周氏…賈政の妾。趙氏と違ってまともな人。しかし子供がいない。
賈宝玉…理屈をつけて勉強から逃げるその姿は、まるで就職を拒否しているニートのよう。まあこういう態度をとるのも、人の情理を踏みにじる封建主義への、彼なりの精一杯の抵抗なのかもしれない。
薛宝釵…賈蘭を引き合いに出して夫を諭そうとする。が、殆ど効果無し。
紫鵑…主もいなくなり、生き甲斐もなくただ日々を過ごしている。何だか同僚の侍女達ともうまくいってなさそう。忠義一途で頑張っていた彼女なのに、今の姿は余りにも悲しい。
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