第百十四回 王煕鳳 天命を知る


・王煕鳳が危篤状態という知らせが宝玉夫妻のもとへ届く。煕鳳はうわ言で「金陵に帰る」「何とか冊子のもとへ戻る」などと口にしている様子。それを聞いた襲人が宝玉へ一言。
「そういえば若様は、以前そのような夢をご覧になったじゃありませんか?」
「そうだね。だけどあの夢のことは殆ど思い出せないんだ。今度また見れば、みんなの未来もわかるかもしれないね」
「若様ったら! 私が何気なしに言ったことをすぐ本気になさるんですから!」
 そこへ宝釵も加わった。昨年煕鳳が占いをやった時、一人宝釵だけが不吉な予感を覚えていた(第百一回)。そのことを持ち出して、みんなの未来を当ててくれなどと言い出す宝玉。宝釵はたまたま見通せただけだと語り、妙玉の例を持ち出して夫をたしなめる。
 その後、邢岫烟のことで話していた三人のもとへ、煕鳳が亡くなったとの知らせ。夫婦は急ぎその場へ駆けつけた。

・王煕鳳の死に慟哭する賈璉や巧姐。手元が苦しいながらも葬式の準備へ。そんなところへやってきた親戚の王仁。少し泣いたかと思えばいきなり金の要求を始める。賈璉が応じないので、娘の巧姐を引き寄せて言う。
「なあ嬢や、今後は何でもわしの言うことを聞くようにするんだぞ。お前の母さんはただもうご隠居様に尽くすばかりで、わしら身内のもんには全くいい目を見せてくれたことが無い。お前の父さんも、母さんを大事にせず妾までいれるようなことをした。今だって葬式をケチケチやっているんだからな!」
「いいえ、お父様も本当は立派にやりたいんですわ。でもお金が無いんですもの。この前没収にあったばかりなんですから」
「嘘つけぇ! ちゃんとわしの耳にも入っとるんだ。ご隠居様が沢山金目の物をくれたんだろう? ああ、そうか。お前その分を自分の嫁入りにおとっておくつもりだな!」
 史太君の遺品は既に使い込んでしまい、先日も強盗があったのでまるで残っていない。何より、王仁が賈家から無心しまくっていたのを巧姐も知っているので、すっかりこの伯父を軽蔑した。王仁も巧姐を可愛げの無いガキだと思うように。

・賈璉は葬式準備で大わらわ。平児はそんな彼を諌め、没収を免れた銀子を彼に差し出す。
賈璉「ありがたい! いつかこっちで金を工面してきちんと返すよ」
平児「あたくしのことはいいんです。ただ、奥様の葬式をきちんとやってくださいませ」
 以降、賈璉は平児に心服して色々と相談を持ちかけるように。妾の秋桐は平児が煕鳳の後釜を狙ってるのだと思い込んで周囲に悪口を吹き込むが、そのせいで賈璉から一層嫌われるように。ざまあないぜ。

・ある日、賈家の食客・程日興が賈政に家計立て直しのアドバイス。
1、信用出来る執事を残して後はやめさせる。
2、ほったらかしになっている荘園を再経営して利益をあげる。
 が、ここ最近の出来事で賈政は身内も信用出来ない状況。そもそも家事に疎く、おまけに喪中と来ている。それに使用人達も自己チューのクズばかりときているので、とても立て直しをやる気力が起きない。
そこへ、江南の甄家の当主・甄応嘉が来訪したとの知らせ。急ぎ迎え入れる賈政。甄家は賈家に先立って没収に遭ったが、その後復職して都へ来る用事が出来たらしい。その途中、賈家の不幸を知って立ち寄ったのだという。甄応嘉が朝廷より海賊討伐の任を受けたと聞いた賈政は、ちょうど娘の探春が海疆に嫁いでいったので、消息を知らせてほしいと頼み込む。一方の応嘉も、後ほど家族が上京してくるので、その時は面倒を見て欲しいと依頼する。承知する賈政。
 甄応嘉はお勤めがあるので辞去しようとするが、出がけに宝玉の挨拶を受ける。彼が自分の息子と何から何まで瓜二つなので驚いたが、今はあれこれ話す間もなく、その場を立ち去るのだった。

次回を待て

小言
王煕鳳死すの回。といっても実質的な最期は前回描かれているので、今回は殆ど葬儀関連の話に終始している。王煕鳳を死に至らしめた病だが、これは急に始まったことではなく、前八十回の事典でしばしば取り上げられている。ただし、曹雪芹の原案では王煕鳳の末路も随分違ったものらしい。ヒントになるのは例によって第五回。「金陵十二釵正冊」では、王煕鳳は離縁され泣く泣く金陵へ帰ることになっている。理由は主に二つあり、一つが賈家捜索時明らかになった高利貸し。この不正は煕鳳一人によるものなので、当然彼女に追究がいくはずだが、現行本ではそこらへんがうやむやになって終わっている。またもう一つが尤二姐の件。実は現行本だと賈璉は尤二姐の死の真相を知らぬままだったりする。しかし原版では賈珍逮捕時に尤二姐の死についても追及があり、そこで賈璉は妻が尤二姐を死に至らしめたのだとわかる。まあそれ以外にも彼女をバックアップしていた史太君の死など要因はあるのだが、それらが重なって離縁という末路に繋がるわけである。
ただし同じ第五回で出てくる「紅楼夢十二曲」では「聡明すぎる性質が自身を滅ぼす」という内容なので、現行本の結末もあながち外れというわけではない。王煕鳳の病気も、大家庭のかじ取りをしていく中で気苦労を重ねた結果重くなったのであり、彼女の死の大きな要因なのは確か。

気になる人物達
王煕鳳…家庭の万事を操っていた彼女だが、結局その家庭によって押し潰されてしまった。栄華を極め尽くし、全てを失い死んでいったその最期は切ない。
平児…彼女がいなければ煕鳳はどうなっていたことやら。葬儀の一件で賈璉からそれまで以上に愛されるように。
秋桐…賈璉の妾。平児の献身が正妻の地位を狙ってのことだと思い込む小物。
賈璉…妻の死に涙。離縁してしまう曹雪芹の原版よりは、救いのある別れ方かも?
巧姐…煕鳳の娘。母の死で窮地に追い込まれている。
王仁…煕鳳の兄。クズ。王家はこんなんばっか。
賈宝玉・薛宝釵…王煕鳳の死を悲しむ。
賈政…色々あったせいで、家の立て直しにもすっかり諦めムード。
程日興…賈家の食客。落ちぶれた後もつき合い続けているあたり、友人連中の中ではいい奴かも。
甄応嘉…甄家の当主。甄宝玉の父。彼ら一家の詳しいエピソードは次回にて。
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