第百十五回 甄家にも宝玉はいましたよ。賈家とは比べものにならないほど優秀な宝玉がね…


・賈政は宝玉・環・蘭の三人を呼びつけ、これから勉強に励むよう命じた。宝玉はげんなり。

・地蔵庵の尼二人が挨拶周りにやってきていた。薛宝釵にすげなくあしらわれたので、賈惜春のもとを訪れる尼達。お布施狙いであれこれトークしていると、惜春が出家したいと言い出す。慌てて止める尼達だったが、惜春の決意は固いのだった。

・甄家の奥方と息子がにやってくる。急ぎ迎える家族達。初めて対面する賈宝玉と甄宝玉。当人達も周囲の人々も、瓜二つなその姿に感嘆する。

・甄宝玉は先日、夢の中で太虚幻境をさまよい、悟りを得て勉強に励んでいた。ここまでそっくりな相手なら、きっと同様の体験をしているに違いないと思いこむ。そこで、これまでだらけきっていた自分がいかに悟りを開き、将来のために勉強しているかを語り出す。が、そのお説教臭い内容に賈宝玉はウンザリ。王夫人は甄宝玉の人柄に感動し、李綺を娶らせたいと甄夫人へ話すのだった。

・夫が戻ってくるなり、薛宝釵は甄宝玉のことを尋ねる。
賈宝玉「いやー顔はそっくりだけど、話すことときたらクソ役人そのものですよ。あんなのと一緒にされるくらいなら、僕は自分の顔を捨てますね!」
薛宝釵「まったく、あなたこそ何をおっしゃるんです。男児たるものやはり甄様のような心がけを持つべきです。それをあなたときたらクドクドクド……」
 妻のお説教にフリーズした宝玉。再び以前のボンヤリ病がぶり返してしまうのだった。

・惜春がしつこく出家願いをする中、王夫人は宝玉が再び病気になったことを聞きつける。パニックに陥る賈家。

・そんなところへ一人の僧がふらりと現れる。
「宝玉持ってきたから一万両寄越せ
 最初ははねつけていた家人達だったが、政は以前僧がやってきて宝玉を治療したことを思い出し、中へ引き入れる。果たして、僧が通霊宝玉を賈宝玉へ握らせると、彼は途端に目を覚ましたのだった。
 喜ぶ一同。とにかく一万両を用意しなければと、奥へ急ぐ賈政。

・復活した宝玉を見て、麝月が笑いながら言う。
「本当にお宝物ですね! 少しご覧になっただけでこんなによくおなりなんですもの――」
 言うが否や、突然宝玉がまた卒倒してしまう! どうなる宝玉、待て次回!

小言
クライマックスもいよいよ近くなり、終盤のキーパーソンである甄宝玉が登場する。第五十六回以来の登場であり、その時も本人は姿を見せないので、読者もいまいち印象が薄いはず(そもそも家自体の話題が本編で余り出てこない)。
さて、この甄宝玉は賈宝玉と表裏一体の存在として描かれている。それぞれ「甄zhen」は「真zhen=本物」、「賈jia」は「仮(假)jia=偽物」という意味が隠されているところからもそれがうかがえる。
この「真」と「仮」の対比には諸説があるため、簡単ながら紹介したい。
紅楼夢には作者・曹雪芹の半生が多分に盛り込まれている。若い頃は大家の貴公子として優雅に暮らし、その後没落したのも事実で、主人公の賈宝玉も作者自身のイメージを投影している。が、彼が「仮=偽物」という名前をとっている以上、完全な作者の生き写しではないと考えられる。つまり、甄宝玉こそ作者の真なる投影というわけ。二人の宝玉はそっくりだが、その末路は大きく異なっている。没落の現実に直面し、勉学に励もうとする宝玉。没落後も夢の世界から抜け出せない賈宝玉。もっとも、作者は結局曹家を再興出来ずに終わっている。現行本では甄家も賈家もそれぞれ復活の兆しを見せるが、曹雪芹の原版では賈家はそのまま滅亡の一途をたどり甄家だけが復興、あるいは結局どちらも滅亡したのではないかという見方も。
「真」と「仮」という対比だと、甄宝玉こそが作者の理想する人物だと思われがちだが、作者は第五回でなかなか興味深いことを書いている。「太虚幻境」の対聯「仮が真なる時、真もまた仮なり」の文句がある。つまり賈宝玉にせよ甄宝玉にせよ、どちらが正しいというわけではなく、どちらも真実であり偽物でもあるということだ。作者自身の心情が現実と理想の間で揺れ動いていたとも考えられるし、あるいは読者に対して真相をぼかすため曖昧な書き方をしたとも考えられる。
他にも、賈宝玉はもともと仙界の神瑛侍者であり、人間ではない。そういう意味でも「真」と「仮」の対比になっている。もっとも、作中にはもう一つ「通霊宝玉」という宝玉が存在する。そのため、実は甄宝玉こそが神瑛侍者であって、賈宝玉は「通霊宝玉」が人になったものだという解釈もある。二人の宝玉についての定説は得られないままだが、紅楼夢の研究を奥深くしている要因の一つであることは間違いない。

気になる人物達
賈惜春…出家を真剣に考える。家庭の中に自由が無く、不幸続きな境遇なのでそういう決意に至るのも致し方なしか。
尤氏…ろくでなし。
賈宝玉…甄宝玉との出会いを楽しみにしていたが、会ってみたら性格が自分正反対なのにガッカリ。病気をしたかと思えば覚醒し、また気を失ったりと忙しい。
甄宝玉…九十三回で太虚幻境に行ったことで、現実と向き合い勉学に励んでいる。
賈蘭…甄宝玉と意気投合。
賈環…他三人の会話についていけず空気扱い。
薛宝釵…いい嫁なんだけれど、ああ、嫁ぐ相手を間違えてますね…。可哀想。ちなみに挨拶回りをしてきた尼には、冷たい性格だと思われていた。
賈政…何だかんだ息子が可愛いいいオヤジ。
僧…久しぶりの登場。別に欲しくもないだろうに一万両を要求。意地悪のつもりか。
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