第百十六回 今の僕にはね、過去と未来の全てが見える


・意識を失った賈宝玉は、夢の中で僧に出会い、ふらふらと彼についていった。やってきたのは、以前見たことがあるような宮殿。中に入ると、なんと鴛鴦そっくりの娘が手招きしている。急ぎ追いかけたが、宝玉は彼女を見失ってしまった。

・行き着いた場所で、宝玉は帳簿を見つける。タイトルは「金陵十二釵正冊」。中身を読んでいくうちに、黛玉や宝釵の運命が書かれていることに、おぼろげながら気がつく。続いて「金陵十二釵又副冊」というのを開くと、そこには襲人と思しき人の運命が。宝玉はそれを読んで仰天してしまう。
「まあ、ここで何をなさってるんです? 黛玉様がお呼びですのに」
 振り向くと、それはさっきの鴛鴦だった。宝玉が慌てて追いかけ、また別の場所に行き着く。そこには、根本の赤い草がたおやかな風情で生えていた。
 ぼんやりしていた彼を、誰かが横から一括する。
「こら、仙草を盗み見するなんてどういうつもり?」
 振り向いてみれば、それは仙女だった。
「僕は鴛鴦姉さんをさがしていたんです。どこにいるか知りませんか」
「私はここで仙草の世話をしてるのです。そんな人など知りません。この仙草は名を「絳珠草」といいまして、昔枯れそうになっていたのを神瑛使者という方に甘露をかけていただいたおかげで永遠の命を得たのです。その後、下界に降りて甘露の恩を返し、またここへ戻ってきたのです」
「あなたがそのような仕事についているとすれば、もしかして、芙蓉の花の仙女様もいるのですか?」
「そんなこと、私の主人である瀟湘妃子様にしかわかりません」
「瀟湘妃子ですって! それは僕の従姉妹の林黛玉ですよ!」
「どうして主が俗人と関わりなど持ちまして? でたらめを言うと叩き出しますよ!」
 仙女に怒られて、すごすご帰って行く宝玉。すると、いきなり尤三姐そっくりの仙女が現れて彼を殺そうとする。泡を食って逃げ出すと、今度現れたのは晴雯そっくりの仙女。彼女は「瀟湘妃子様のところへご案内します」と宝玉を別の宮殿へ連れ出した。奥部屋に入ると、侍女に囲まれて座っている黛玉が。その姿を見た途端、駆け寄ろうとする宝玉。が、周囲の侍女に無礼者と怒鳴られて追い出される。あちこちさまよううちに、王熙鳳、秦可卿、賈迎春らしき仙女達と行き違い、再び僧と出くわす。
「ああ、あなたでしたか。ここでは私の近しい人達が沢山いるのに、まるで構ってくれません。これは現実なのですか、それとも夢なんですか?」
「お前、ここへきて何かを見なかったかね?」
「帳簿を見ました」
「それでいながらまだ悟れぬのか! この世の情縁は全て幻なのじゃ。とにかく帳簿のことは胸に刻んでおき、今は家へと帰るがよい」

・目を覚ました宝玉は寝床にいた。そばでは王夫人や薛宝釵が泣いている。宝玉は夢の大部分を覚えていたので、思わず愉快になって笑い出す。何せ自分を取り巻く人々の運命が全てわかっているのだから。

・宝玉が回復して安心した賈政は、史太君や黛玉らの棺を故郷の南方へ送り届けることに。家事を璉に任せ、子供達には勉強に励むよう言い含めて出立した。

・宝玉は回復後、以前と人が変わったようになり、娘達とまるきり接触を絶ってしまった。紫鵑はそんな彼の変化を目にして疑念を抱く。遊びにやってきた柳五児もどうやら同じ疑問を感じている様子。そんなところへ、以前やってきた僧が銀子一万両を寄越せと訪問してきて…。
 
次回を待て

小言
壮大な答え合わせの回。ここまで読んできた方ならご存じだろうが、第五回にて金陵十二釵をはじめとするヒロインの運命はあらかじめ明らかにされている。今回宝玉が再び太虚幻境を訪れたことで、とうとう真実をはっきり理解するというわけ。
ちなみにヒロイン達の運命をつづった「金陵十二釵」の帳簿は「正冊」「副冊」「又副冊」の三種類がある。このうち、全員の名前が判明しているのは「正冊」のみで「副冊」および「又副冊」は部分的にしかわかっていない。


気になる人物達
賈宝玉…夢を通してこの世の情の真実を知る。悟りきってしまったその姿は何だか悲しい。
薛宝釵・王夫人…復活した宝玉と通霊宝玉の由来について語り合う。夢から戻ってきた宝玉の変化には気づかずじまい。
賈惜春…生臭物を絶っていることをアピールし、完全に出家モードへ。
麝月…宝玉が昏倒したのを見て自害しようとしたが、彼が無事復活したので胸をなで下ろす。よかったね。
賈蘭・賈環…試験勉強に励む。ただし環は趙氏が亡くなり喪中なので受験資格がない。
僧…宝玉を太虚幻境へ呼び込むが、その後放置プレイ。案内くらいしてやれよ。
花の仙女…絳珠草のお世話をしている。殆どの仙女は宝玉の身の回りにいた人間だが、彼女については見覚えが無かった様子。客人である宝玉が神瑛使者だと気づかずに追い出してしまう。うっかりさんですね。
仙女(鴛鴦)…宝玉の前に度々現れては消える。案内する気があるんだかないんだかわからない。
仙女(尤三姐)…いきなり宝玉を殺そうとする。そういえば柳湘蓮が尤三姐を袖にするきっかけを作ったのは宝玉だった。そりゃ恨むわ。
仙女(晴雯)…晴雯のそっくりさんにして、仙境でまともに宝玉と接した唯一の仙女。
仙女(瀟湘妃子)…仙女達の主人格らしい。黛ちゃんそっくり。しかし一方で黛玉の正体である絳珠草が生えているのは謎。
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