第百十八回 出家の理由? 適当に考えといて!


・王夫人と邢夫人は惜春の決意と尤氏の話を聞き、やむなく出家を認める。ただし賈家のような名門の令嬢がおおっぴらに出家しては外聞が悪いので、有髪のまま屋敷内での出家ということになった。襲人や宝釵は宝玉がさぞ悲しんでいるだろうと思ったが、あにはからんや彼は嬉しそうな様子なのだった。

・出家した惜春の世話をさせるべく、誰か侍女をつき従わせようとするが、誰も行きたがらない。すると、紫鵑が進み出て自分が一緒に出家すると言う。それを聞いた宝玉は王夫人に進言。
宝玉「僕も彼女について行ってもらう方がいいと思いますよ」
王夫人「お前ったら! 惜春が出家するのを引き留めもしないで、後押しするなんてどういうつもりなの?」
宝玉「惜春ちゃんの覚悟が半端なものなら、僕も何も申しませんよ」
惜春「まあお兄様。あたくしはとうに覚悟を決めておりますのよ。出家できればそれが幸せ、出来なければ死ぬまでです」
宝玉「そっか。ならネタバレしてもオッケーだね」
そこで、太虚幻境で聞いてきた惜春の運命を歌い出す宝玉。
「春過ぎてぇ~昨日とは違う黒染めの着物~名門の女の子だけど~一人お仕えする仏様ぁ~」
王夫人をはじめ、ショックを受ける一同。
王夫人「お前……何を言い出すの! 出家はしないと言ったでしょう。よしんば心から出家するつもりがあるとしても、それは私が死んでからのことにしてちょうだい!」
 泣き出す王夫人。宝釵は頑張って涙をこらえていたが、襲人は我慢できず泣き叫ぶ。
「私も……私も惜春お嬢様と一緒に出家しますわ!」
「そりゃ駄目だよ。あんたはそんな福を受ける人じゃないからね」
「では、私に死ねとおっしゃるんですか?」
 宝玉は悲しそうな表情をするだけで答えない。その後惜春は出家し、紫鵑もまめまめしく彼女に仕えるのだった。

・連日遊び通しで文無しになってしまった賈芸・賈環。王仁らと組み、巧姐を外藩の群王へ嫁がせ、仲介料を得ようと画策する。

・平児はそうした話をいち早く聞きつけ、王夫人へ助力を頼む。が、王夫人はまったく無力。何故かのんびりした様子の宝玉。そんなところへ賈政の手紙。なんと嫁いで行った探春が帰郷するとの知らせ。そして宝玉と賈蘭は試験が近いのでしっかり勉強するようにとのことだった。

・宝釵は科挙試験の日が近いと聞き、夫のことが気がかりでならない。いよいよ真心をこめて説得にかかる。
「わたくし、縁あって結ばれた以上、あなたを生涯頼っていかなければなりません。栄耀栄華などはかないものですが、聖賢は人品を重んじて生きなければならないのです」
「ふ~ん、人品ね。確かに聖賢は純粋無垢な赤子の心を忘れるなというけれどね。でも僕らは生まれ落ちた時から欲や愛っていうものの中に埋もれているんだよ。人品を重んじるなんて無理だね」
「あなたのおっしゃる赤子の心は解釈が間違っておりますわ。決して世俗から離れて生きよという意味ではありません。よしんば世俗から離れて生きた聖人がいたにせよ、そうした方々は戦乱や末世に生まれたためやむなくそうしたのです。私やあなたは太平の世に生まれた身、それにご先祖様から沢山の恩を授かってきました。亡きご隠居様もお父様もお母様も、あなたを大事に育ててこられました。もっとご自分の立場をよくお考えになったらどうなのです!」
 微笑して答えない宝玉へ、さらに続ける宝釵。
「私の言葉が間違いでないと思うのでしたら、どうかお心を入れ替えて学問に励んでください。今度の試験に及第すれば、皆様の恩に応えることが出来るでしょう」
「一度及第するくらいなら、何でもありませんよ。いいでしょう」
 ちょうどそこへ賈蘭がやってくる。試験が近いので、試験の題目を出してほしいという。すぐさま文章について論じ合う二人。宝釵と襲人はその様子を見て顔をほころばせる。
 その後、宝玉は自分の部屋の書物を片づけ、室内を勉強モードに改装。
襲人「さすが奥様ですわ。ただ一度だけで若様を説得してしまうんですから。ただ、試験勉強を始めるのは惜しいことに遅すぎましたわね」
宝釵「試験に受かる受からないは別にいいのよ。宝玉さんが今回のことをきっかけにして努力を積み、真っ直ぐに生きてくださればそれで満足なの」
 二人はさらに協議を重ねる。宝玉が気を紛らわさないよう、麝月や秋紋といった近しい侍女に世話をさせるべきではない。そこで彼とは比較的縁の薄い鶯児をつけてやることに。

・ある日のこと、お菓子を運んできた鶯児が宝玉へ笑いかける。
「宝玉様が及第すれば、奥様も大変お幸せになれるというものですわ」
「奥様が幸せものなら、君だってそうだね」
「わたくしなんかつまらぬ侍女のままで一生を終えるんですわ」
「そんなことないよ。ねえ、お前に聞かせてやりたいことがあるんだ…」

次回を待て

小言
残すところあと三回。クライマックスに向けて登場人物が次々に退場していく。物語のスポットは金陵十二釵の生き残りである惜春と巧姐にあてられている。惜春は原案だと身一つの出家で、頼れる者もない悲惨な境遇に落ちぶれてしまうらしい。それに比べると、家庭内でしかも侍女がつき従っている現行本の境遇はかなりマシといえるだろう。
後半では宝玉が科挙試験の勉強に励む。上ではかなりカットしてしまったが、薛宝釵との聖人問答は今回のハイライト。いつも冷静な宝釵が珍しく感情を爆発させたシーンではなかろうか。ちなみに清代の科挙試験は童試、郷試、会試、殿試…と段階的な試験があり、及第までにはかなり長いコースをクリアしなければならない。が、賈宝玉や賈蘭はあらかじめ銀子を上納することで最初の試験を受けなくてもよいことになっていた。何だかんだお金持ちはお得なんである。

気になる人物達
賈宝玉…もはや人々の運命を知っているので達観している。宝釵に説得されて勉強を始めたが…。
薛宝釵…夫を説得する演説シーンは屈指の見所。男勝りの教養があっても、女性に受験資格が無い以上何にも出来ない。幸せも不幸もひたすら男頼みな封建時代下の女性の辛さがよくわかる。
襲人…主が勉強に取り組んだのを喜ぶ。後の悲劇も知らず…。
惜春…固い決意で出家。
紫鵑…惜春に従う形で出家。もともと賈家筋の人間なので、黛玉の死後に後を追うことも出来ない状態だった。ある意味、出家というのが彼女にとって救いの道だったのかも。
巧姐…お嬢様危機一髪!
平児…巧姐を守るべく奔走するが、さすがの彼女も状況が状況だけに無力。
王夫人…役立たず。少しはやる気出せよ!
邢夫人…賈環が持ってきた巧姐の縁談話の裏にも気づかずあっさり食いつく。アホ。
賈環・賈芸その他…サイテーだよあんたら。
賈蘭…真面目に勉強中。
薛宝琴…王夫人の会話にて、幸せな結婚生活を送っていることが語られる。勝ち組か。
薛蝌・邢岫烟・…王夫人の会話にて、幸せな結婚生活を送っていることが語られる。ビンボーだけどね…。
史湘雲…王夫人の会話にて、夫が若くして亡くなったことが語られる。後家を通している模様。
鶯児…宝釵の侍女にして、今回宝玉のお世話役に。なんかキャラ変わってませんか?
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