2016_02
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(Sun)21:51

紅楼夢 第百十九回

第百十九回 今生の別れ


・鶯児にそっと話しかける宝玉。
「君の主(宝釵)は果報者なんだから、君も後々福に預かれるよ。襲人姉さんはあてにならないから、宝釵さんに真心こめて尽くして欲しいな」
 話の筋が飲み込めない鶯児だったが、その場は素直に頷くのだった。

・いよいよ試験の日が近づく。賈家の一同が宝玉・賈蘭の試験及第を期待する中、一人宝釵は近頃の宝玉の変貌ぶりが疑わしく、何かが起こるのではないかと不安に思うのだった。

・試験地へ出発当日。王夫人が宝玉と蘭に見送りの言葉をかける。
「お前達はこれまでこの家を離れたことがなかったわね。道中は知り合いもいないのだからよく気をつけなさい。試験が終わったらすぐに帰ってきて、皆を心配させないようにするのですよ」
 王夫人の言葉に蘭はこくこく頷いた。宝玉の方は涙を流しつつ、王夫人が話し終えると何故か叩頭して言った。
「母上は私を生んでくださいましたが、今生ではとうとうその恩に報いることが出来ませんでした。今回の試験で及第し母上に喜んでいただければ、私の不孝も帳消しになるというものです」
「お前がそういう気持ちでいてくれるのは嬉しいわ。出来ることならご隠居様にお前の立派な姿を見せたかったけれど」
「それには及びません。お婆様は何もかもご存じですから。僕と蘭は必ず及第します。その後蘭は出世して、李紈お姉様もきっと福を授かりますよ」
 宝釵は予言めいたことを口にする夫の様子が不安でならない。涙をのんで黙っていると、宝玉は彼女の前にやってきて無言で一礼した。
「僕は行きます。母上と一緒に吉報を待っていてください」
「ええ。もう出発の時間ですわ。長々とお話することもないでしょう」
「心得ていますよ。そうだ、惜春ちゃんと紫鵑ちゃんにお伝えください。どのみちまた会うことになるとね」
 謎に満ちた言葉を残し、宝玉と蘭は家族に見守られて試験会場へ旅立った。

・賈環は宝玉達がいなくなった隙に巧姐の縁談を進める。邢夫人のところへ行って彼女をたらし込み、話を取り付けた……のはよかったが、邢夫人の侍女がそれを盗み聞きし、急ぎ平児へ伝えていた。同室でその話を聞いた巧姐は泣き出してしまう。平児は王夫人に相談したが、賈環・王仁・賈芸は既に外堀を埋めており、どうにも巧姐を救い出すすべがない。そんなところへ来客が。誰かと思えば劉ばあさんだった。劉ばあさんは平児から巧姐の縁談について聞き、うちの村へ匿ってしまえばいいと答える。今はやむなしとそれを許可する王夫人。巧姐は劉婆さんに連れられて賈家を脱出するのだった。

・一方、外藩の王を訪問した王仁と賈芸だったが、王は輿入れする女があの賈家の娘だと知り、そんな無礼は出来ないと大激怒。王夫人は巧姐が消えたことをダシに環と芸を糾弾。邢夫人や王仁ら含め、悪党達はすっかり面子を潰されてしまい、身の置き所が無くなるのだった。

・試験日からしばらく。宝玉達の帰りを待ちわびていた王夫人。ようやく帰ってきたのは、どういうわけか蘭一人だった。
泣きながら告白する蘭。
「僕はずっと叔父様と一緒だったんです。それが試験場を出た途端、人混みに紛れて見失ってしまって……」
急ぎ捜索に出る家人達。襲人は切ない想いにとらわれる。
「若様は怒ると、しょっちゅう出家すると口にしていたわ。それがまさか本当のことになるなんて……」

・宝玉の失踪に毎日泣き続けていた王夫人。薛未亡人、史湘雲、薛宝琴らがやってきて慰めていた。そんなところへ探春が帰ってきたとの知らせ。以前にもまして装いも顔立ちも美しくなっている探春に対し、出迎えた王夫人はげっそりやつれている。探春は家の近況を聞くと、王夫人を慰めた。

・帰らぬ宝玉を待つ日々が続く中、一人の侍女が驚喜して知らせを持ち込んできた。宝玉と蘭がそれぞれ科挙試験に及第したのだ。しかし、とうの宝玉が戻ってこないまま。
惜春「試験にまで及第したお兄様が雲隠れする理由があるとすれば、もしかすると出家したのかもしれませんわ」
王夫人「父母を捨てるなんてとんでもない不孝です! どうして出家などしなければならないの」
探春「お兄様は生まれ落ちたと時から常人と違うところがありましたもの。戻ってこなければ、何かあったと考えるべきですわ。でも、お兄様が立派に悟りを開いたのだとしたら、それも奥様の功徳による賜物でしょう」
 何もいえなくなる宝釵と、ショックで倒れ込んでしまう襲人。

・翌日、試験の謝恩会に出世した蘭は、甄宝玉も及第していたことを知る。また試験回答を見た天子は、賈姓の者が及第者の一覧にいるのを発見する。天子は蘭を呼び出して下問すると、賈家のこれまでの忠勤を見込み、大赦を与えることとなった。賈赦と賈珍は免罪、世襲職復活、没収した家財も返還された。さらに失踪した宝玉を捜索する命を出した。

・劉婆さんのもとへ避難していた巧姐と平児は平穏な生活を送っていた。劉婆さんの近所には周という富豪もおり、巧姐の噂を聞きつけて是非縁談を結びたいと考える。そんな中、遣いにやった板児が賈家復興の話を持ってきたので、巧姐達は一度帰宅することになった。

・賈璉もまた、賈赦のもとから帰ってきた。巧姐の事件を知って憤慨し、一方で王夫人に感謝を伝える(いやこのオバハン何もしてないと思うんですけど……)。そこへ巧姐達もちょうど帰宅してきた。劉婆さんに深く礼を述べる璉。また平児に対してもいよいよ尊重の念を深めるのだった。
巧姐の無事な姿を見た邢夫人は、自分が皆にまんまとはめられたことを知り、深く恥じ入った。

・薛宝釵のもとを訪れた平児は、彼女を慰める。
「天子様のお恵みで、賈家もまた盛り返しそうです。きっと宝玉様も戻って参りますわ」
 そこへ飛び込んできた秋紋が、緊急の知らせをもたらす。
「襲人さんが大変です!」

ついに最終回! 待て次回!

小言
百十八回より引き続き、科挙試験と巧姐の縁談が平行して語られる。ここで科挙試験の過酷さについて改めて補足しておこう。試験会場には膨大な受験生が集まる。彼らは狭くて暗くて汚らしい個室に押し込まれ、長時間かけて答案を作成しなければならない。宝玉や蘭に限らず、受験生は坊ちゃん育ちが少なくないから、これだけでも相当大変なことだろう。答案は長大な文章をややこしい規則に従って書かなければならないので、もし間違いがあったら目もあてられない。受験生の逸話として、試験中に幽霊を見たり発狂したりすることもあったとか。
ちなみに本編でも語られたが、試験合格者には謝恩会なるものがあり、試験後に皆で宴会を開く。また同年合格者は「同年」と呼び合い、年齢の別なく親しい交際をする。こうした横の繋がりが、官界進出後の出世競争などで活きてくるのだ。
さて、現行本の展開だと、賈赦らの無罪放免や財産返還など、賈家はかなり救済されている。若干ご都合主義な気もするが、このあたり続作者はあえてそうしたのだろうと感じる部分もある。まあその辺に関してはまた次回。

気になる人物達
賈宝玉…受験後に失踪。皆に別れを告げるシーンは泣ける。さすがに母親へ得挨拶した時は涙を隠しきれなかった様子。第七位という妙にリアルな順位で及第した。
薛宝釵…悲劇ここに極まれり。もう可哀想以外の言葉が思いつかない。
花襲人…宝玉失踪後病気に。幼い頃から宝玉へ尽くしてきただけに、その悲しみは宝釵以上かもしれない。
王夫人…息子への愛はわかるが…もっと他のところにも気を回してあげようよ。巧姐救出作戦でもぶっちぎりに貢献度が低い。その割には賈璉のお礼を受けて何とも言わず。少しは謙遜とか無いのか。
賈蘭…宝玉と一緒に受験。第百三十位で及第。天子にもお目通りして、賈家復興のきっかけを作った。
李紈…蘭の母。宝玉失踪中なので、息子の及第を喜ぼうにも喜びにくい空気。
巧姐…今回のヒロイン。仲間たちのおかげでどうにか危機を免れた。
平児…今回のヒーロー。姉さんかっこよすぎ。
劉婆さん…今回のジョーカー。「娘が浚われそうなら隠せばいいじゃん」と事も無げに言ってのける。まあ田舎の人にしてみればそういう簡単な話なんでしょうけどね。そして巧姐に憧れる田舎の金持ちに対して、すぐさま「仲を取り持ちますよ」などと言う。悪気は無いんだろうけど落ち着いてください。
賈璉…近頃随分頼りがいのある男になってきたなあ。以前のヘタレな浮気者とは思えん。
賈環・賈芸・王仁…何かもう語るのも面倒くさい悪党連中。ばたばたするうち勝手に自滅した。
賈惜春…女道士の装いで登場。すっかり出家ぶりが板についたようで。
賈探春…帰ってきた我らが三妹妹。以前にもましてご立派に。幸せそうで何よりです。惜春が出家したことについては内心面白くなかった模様。あと、弟が悪事をしでかしたことを知ったら憤慨しそう。
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