2016_02
21
(Sun)00:23

紅楼夢 総括

紅楼夢 総括


とうとう終わりました。中国古典小説全話レビュー第一段の「紅楼夢」。
年数を数えたら何と三年。いくら何でもかかりすぎ。まあ後半からは大分駆け足でやってましたが。最後なので、改めて紅楼夢の魅力について語っておきます。
レビューでも述べてきましたが、紅楼夢は中国古典小説でもかなり読みにくい作品です。他の四大名著に比べ、エンタ-テイメント要素に欠けるのもとっつきにくさを助長しています。
しかし、それらを覆すほどの面白さがあるのも事実です。紅楼夢はあらゆるジャンルを内包しています。恋愛小説なのはもちろん、ファンタジー小説、家庭小説、社会小説、色んな側面を持ち合わせています。エンタメに徹している他の四大名著と違い、作者の明確な政治的・社会的主張もあります。文学革命が始まった時、王国維が紅楼夢を国民的文学として推したのも、単なるエンタメとは異質な要素を持っていたからでしょう。

ただ、私が一番プッシュしたいのは作中で繰り返される現実と虚実の対比です。栄寧の両邸と大観園で繰り広げられる華やかな
生活は、侍女達の犠牲や賄賂の横行といったものによって支えられている虚栄に過ぎません。容貌才能優れたヒロイン達に待っているのは、虐待死や病死といった過酷な運命ばかりです。夢のような日々を堪能していた主人公賈宝玉は、崩壊していく楽園の現実を直視出来ず、結局堕落してしまいます。

紅楼夢はファンタジーな設定を多分に用い、いかにも作り物らしさを装っています。が、書かれているのは現実社会の実態そのもの、ありのままの真実を、物語の力を借りてつづっているわけです。これは他の四大名著と明らかに違う点です。三国志演義、水滸伝、西遊記は史実を下敷きに物語を書いています。言いかえると、真実を土台に嘘を語っているわけです。紅楼夢はその逆です。明らかに嘘とわかるような設定を押し出しながら、本物の社会、ありのままの人々の姿を描いています。紅楼夢の登場人物は、誰しも地に足の着いた人物ばかりです。勉強嫌いで女の子と遊ぶのが大好きな賈宝玉、愛嬌があって仕事をさぼる晴雯、良家の令嬢なのに生まれや育ちのせいで気弱な賈迎春、どれもまともな小説の登場人物ではありません。だからこそ、彼らの姿はより現実味のあるものになります。そしてそんな登場人物達を襲う悲劇に、現代の我々も心を揺さぶられるわけです。

また紅楼夢は、作中で度々当時の小説批判を行っています。曰く、嘘っぱちな設定に型どおりの物語ばかり、と。清代になってワンパターン化していた才子佳人小説や政治小説などに対する批判とも思われますが、同時にそれらの作品には一遍も真実が書かれていないという憤りもあったのではないでしょうか(もっとも社会の実態を描くということでは、金瓶梅など一部の作品が完全な形では無いものの先駆として存在していました)。
真実を描いた物語。これこそが紅楼夢の魅力だと思います。だからこそ、賈宝玉と林黛玉の悲恋、下層の人々の悲惨な死、賈家の堕落と崩壊といったエピソードがより読者の心に強く響くのではないでしょうか。

まああれこれ述べましたが、中国古典小説というくくりのみならず、世界文学の中で見ても間違いなく傑作の一つです。ぜひぜひ、沢山の方々に読んでいただきたい作品です。
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C.O.M.M.E.N.T

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