今回紹介するのは第十七話「蘇小妹三難新郎」。資料によっては「蘇小妹三難秦観」という表記もあるが、意味は同じ。醒世恒言の第十一巻であり、邦訳は「蘇小妹が新郎を三度苦しめる」。
タイトルに出てくる蘇小妹は、あの宋代の大家・蘇軾の妹である。
え、蘇軾に妹がいたの? と驚く方もいるだろう。
もちろん、いません。この蘇小妹、創作上の人物。詳しくはまた下で語るとして、いつも通り物語紹介を。

ものがたり
四川の眉州には才人がいた。蘇老泉、蘇軾、蘇轍の三蘇である。だが実は才人は彼らだけではなかった。蘇老泉の娘である蘇小妹は才能に溢れ、また一家が文人肌であったために若くして大成する。老泉はある時詩作に難儀していたところ、部屋へ立ち寄った娘があっさり完成させてしまったのを見て、男であればよかったものをと嘆息する。それからは酷く娘を可愛がり、やがて彼女は十六歳を迎えた。その後、宮中でもライバルであった王安石が老泉を飲みに誘う。語り合ううちに王安石は息子の文才をひけらかすような発言をしたので、つい老泉も酔いに任せて娘の自慢をしてしまう。後で後悔したものの、王安石からは自分の息子の文章を小妹に添削してほしいと頼まれる。蘇小妹はあっさり批評を書く。その批評があまりにも上から目線なので、老泉はびびってしまう。適当に書き直して王安石に送ると、何と娘さんと縁談を結びたいという返事がかえってきた。老泉は娘はブスだからと言い訳して断る。ところが王安石は当時の宰相であり、その彼から求婚された娘がいると噂が伝わるや、蘇家に縁談を申し込むものが次々と現れた。しかし蘇小妹は申し込んできた者に文章を送らせ、出来が悪いと全て突っぱねてしまう。
ただ一人、秦観という揚州の者の文章は出来がよく、蘇小妹も興味を持った。しかし秦観の方は小妹がブスであるという噂も聞きつけていたので、ある日小妹が廟へお参りに出かけたところを道士に紛争して探りに行く。噂と違ってなかなかの器量なので、からかってみると受け答えも賢い。期日を選んで結婚した。しかし試験にまだ受かっていないからと床入りはお預け。その後試験に及第し、ようやく床入りできる……と思ったらまだ甘かった。蘇小妹は三問の題を用意しており、全部できたらあなたと寝てあげるという、面倒くさい要件を持ちかける。秦観は二問まで難なく解いたが、三問目がどうしても出来ない。しかし蘇軾が彼を影ながら助け、ようやく秦観は思いを遂げる。その後、夫婦は仲睦まじく暮らす。ある時小妹が都の兄のもとへ遊びに行くと、蘇軾は友人から出された題を解くのに難儀しているようだった。だが蘇小妹はそれをあっさり解く。蘇軾は妹の才をたたえた。蘇軾からの書簡でこの一件について知った秦観は、妻のことを試すべく自分も同じような題を送る。だが蘇小妹はそれをあっさり解く。才知に溢れた蘇小妹の評判は、宮中でも有名になった。その後小妹は夫に先立って亡くなる。秦観は彼女のことを生涯忘れず、二度と結婚しなかった。



入話では、文才のある女性達の名が沢山挙げられている。長い中国の歴史の中では女性の文学者も少なくない。彼女達の存在が、本編に出てくる蘇小妹の存在を説得力あるものにしている。
さて、その蘇小妹が架空の人物であることは上でも述べた。蘇軾は弟との間で大量の書簡のやり取りをしているのに、その中に蘇小妹に関する話題が一切出てこない。いくらなんでも、身内に対する話題で一言も触れられていないのはおかしい、というのが彼女の存在を否定する根拠になっている。
まあそうでなくとも本編を見れば、実在が怪しまれるのも大いにわかるだろう。蘇小妹ほどのスーパー才女は古典小説を読んでいてもなかなかいない。蘇軾の妹、という肩書きがあったからこそ、ここまで物凄いキャラクターが生まれてしまったのだろう。逆に考えれば蘇軾もそれだけ偉大な文人だったということだ。
何かと上から目線な蘇小妹は、結構キャラが立っている。王安石の息子の文章を見て「こんな文書く奴は早死にだわ」とまで言ってのけたり、兄の蘇軾に向かって複雑な言い回しで「お前の口がもじゃもじゃの髭に隠れて見えねーよwww」「顎長すぎて涙がいつまで経っても落ちないんすケドwww」とからかったり。
また本作は特異な詩のやり取りが多数登場する。ここではうまく紹介出来ないが、当時の知識人達がどのように教養をはかっていたかがわかるようで面白い。漢字や詩の奥深さを味わうことが出来る。
ものがたり紹介のところでも書いたように、全編通してなかなかコミカルなのも特徴。特に蘇老泉の娘への愛着は読んでいて愛らしさを感じる。秦観が道士に変装して小妹とやり取りをする場面もギャグ要素満載。
登場人物についてさらに述べていくと、やはり王安石と蘇家の関係が色々と興味深い。王安石は当時新法による富国強兵改革を進めていた人物で、老泉の息子蘇軾はそれに対して反対を訴えている。だが両者の仲の悪さは新法に始まったわけではなく、親の代からの長い因縁があった。一応、老泉と王安石はお互いの立場を重んじて表向き仲良くしているわけだが。コミカルな部分に隠れてしまってはいるが、このあたり史実をうまく話に取り込んでいる。
蘇小妹の夫である秦観も実在の人物で、蘇軾とは友人である。やはり相当な文才を持っていた。彼の本当の妻は徐文美という名で、子供は三人ほどもうけたらしい。
スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://ryunohige5884.blog.fc2.com/tb.php/45-7aea1e09