2013_06
02
(Sun)23:43

今古奇観 その十一

今回ご紹介するのは「喻世明言」より「蒋兴哥重会珍珠衫」の話。邦題は「蒋兴哥が珍珠衫に再び出会うこと」。いわゆる庶民の昼ドラ作品。個人的には、今古奇観の中でもかなり好きな一遍だったりする。

ものがたり
湖広の蔣興哥は父について商売を学び、若くして世渡りの術を身につけていった。彼は父の葬儀後に、許嫁であった王家の娘、三巧児を妻として娶る。二人とも美男美女であり、一対の玉器のような夫婦だった。仲睦まじく数年を暮していた夫婦だが、やがて商売のために蔣興哥は旅立ちを余儀なくされてしまう。彼は三巧児に対して、近所に浮気癖の輩が多いので決して外へ出歩かないことを約束させ、いよいよ出発する。もとは一年で戻ってくるはずだったが、旅先の広東で病気になり、商売もはかどらず足止めを食ってしまう。その頃、残された三巧児は夫が恋しくてたまらない。ある時女中の連れてきた占い師の言葉を聞き、それからは夫の帰りを待ちきれず二階から顔を出すようになる。それを、近所にいた陳大郎という男に見初められてしまう。陳大郎は彼女をものにしたくなり、周旋屋の薛婆さんへ相談を持ちかける。薛婆さんは三巧児の前で真珠を売りさばく振りをして興味を引き、三巧児と友人の関係を築く。その後、薛婆さんは度々彼女の家へ出入りするようになり、ある時三巧児がお酒で酔った隙をついて陳大郎を引き入れ、思いを遂げさせてやる。三巧児は最初こそ罪悪感でいっぱいだったものの、薛婆さんに色々と色恋について吹き込まれていたため、どうしても陳大郎と別れるのが惜しく、そのまま愛人の関係を続けてしまう。やがて清明節の頃、陳大郎は郷里に帰らなければならなくなった。三巧児はすっかり彼に思いを寄せていたので、再会を約束する品として暑い季節もクールに涼しく過ごせる「珍珠衫(しんじゅのしたぎ)」を送る。
さて、陳大郎は故郷に帰る途中、羅という粋な男に出会う。これがなんと本名を隠して商売をしていた蔣興哥であり、調子に乗った陳大郎がぺらぺらと三巧児のことをしゃべるので、すぐ真相に気がついてしまう。蔣興哥は自宅に戻ると、妻を両親のもとへ帰らせ、さらに離縁状を送りつける。当然、両親が何事かと問いただしに来たが、蔣興哥は理由なら三巧児に聞いてくれの一点張り。三巧児は自分の浮気がばれたと知って、恥ずかしさの余り泣くばかり。その後、蔣興哥は女中と薛婆さんを叩きのめして鬱憤を晴らす。離縁はしたものの、夫婦はお互いにまだ気持ちが残っており、辛い別れだった。ある時、南京の呉傑という進士が湖広の知事になり、やもめになっていた三巧児を妻に迎える。一方、故郷に帰った陳大郎は商売がうまくいっていなかった。妻の平氏を置いて再び三巧児のところへ行くと、既に彼女は他へ嫁いでしまっている。ショックで病気になった彼は、病弱して死ぬ。残された妻の平氏は夫の葬儀をあげたが、すっかり貧しい身の上に。彼女は張という隣人に再婚を勧められて新たに嫁いだが、それはなんと蔣興哥だった。平氏が珍珠衫を持っているのを見て、その因縁に驚くのだった。蔣興哥は平氏と仲良く暮らしていたが、ある商売で老人ともめ事を起こし、死なせてしまう。そのため裁判にかけられることとなったが、知事は三巧児を妻にしている呉傑だった。かつての夫の姿を見て、三巧児は必死に減刑を求める。蔣興哥が自分の兄であると嘘をついて。呉傑は話のわかる人間だったため、刑罰をすることなくこの件を取りさばく。抱き合うかつての夫婦。様子がおかしいとみた呉傑が問いただすと、三巧児もようやく真実を語る。呉傑は二人に復縁を薦め、かくして蔣興哥は平氏と三巧児、二人の妻を娶ることになった。その後、三人は仲良く暮らしたのだった。

本作は時代の特定が出来ない。描写を見る限りだと、恐らく明代。
物語はまさに庶民の昼ドラ。三巧児はもともと操の固い女だったのだが、周旋屋の薛婆さんにそそのかされて団地妻のようにだらしない淫らさを発揮してしまう。この薛婆さんの計略がまたうまい。中国古典に出てくる周旋婆さんは殆どの場合ろくでもないことをしでかしてくれるのだが、世故に長けた彼女達のキャラクターそのものはリアルで、読んでいると色々唸らされるのも事実。金にがめついだけで、決して悪人とは言い切れないのもポイント。物語紹介では省いてしまったが、陳大郎と三巧児を引き合わせる計略は見事で、いーとこ育ちの三巧児があっさり騙されてしまうのも仕方ない。仲人や幇間、周旋屋といったキャラクターは、中国古典の特徴の一つといってもいいだろう。
三巧児はまさに箱入り娘がそのまま奥さんになったような女で、結構隙だらけ。夫に依存しがちな面も見受けられる。一方で、陳大郎の妻である平氏はしっかり者の印象が強い。夫が亡くなって困窮した時も、自分の針仕事の腕で身を立てていこうと考えるなど、自立心のある強い女である。
蔣興哥も陳大郎も情のある男だが、どっちも女性の扱いが下手というか悪いというか(汗)
ちなみに、現代の感覚だとちょっと忘れてしまいがちになるが、この時代の旅というのはかなり命の危険が伴うものであり、実際陳大郎は盗賊に襲われて商売を台無しにされている。蔣興哥と三巧児がなかなか別れられないのもこうした旅の危険ゆえだと思えばうなずける。
本作には珍珠衫というアイテムが出てくるが、これまたいわゆる中国古典の恋愛で出てくるハンカチや腕輪などの類にあたるキーアイテム。ハンカチ落とす=恋愛フラグなのです。実際にこういう下着があつたのかどうかは不明。





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