2014_06
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(Tue)05:50

紅楼夢 第十三回

第十三回 本当に病気で死んだのか……?


・ある晩、うとうとしていた熙鳳のもとへ、病気療養中の秦可卿がひょっこり現れる。そして賈家の将来のために、あれこれとアドバイスをして消えるのだった。

・はっと目覚めた熙鳳のもとへ知らせが入る。「可卿様が亡くなられました」

・一族が集まってこの死を悼む。可卿の舅である賈珍は泣きに泣き、アホみたいな費用をかけて盛大な葬式を開いてやることに。ちょっとオーバーじゃないか……?

・葬式もろもろの運びは順調だったものの、賈珍の妻尤氏は病気が出たとかで奥向きの仕事をする人間がいない。宝玉の提案で、王熙鳳が寧国邸へ通ってその仕事をすることに。

・寧国邸の風紀の乱れを見抜いている熙鳳。さて改革は出来るのか?

まて次回

小言
さて、紅楼夢きってのミステリーの一つに、今回の秦可卿の死がよく挙げられる。初読だと当然気がつくはずもないのだが、何回も通しで読むと、おかしな箇所が多すぎるのだ。以下列挙していくと、
一、秦可卿の急死
二、賈珍の反応
三、可卿の侍女達の行動
四、尤氏の急病

まず一について。秦可卿は確かに病床の身だったが、第十一回の終盤では病気が改善に向かっているような描写がある。それなのに何の前触れもなく死んでしまう。なので今回、一族の者達も彼女の死因に疑念を抱いている。そして結局死因は明らかにならない。

二について。賈珍は可卿の舅である。夫の賈蓉が大泣きして葬式を盛大にしようというならわかるが、何故舅の珍がここまで大騒ぎしなければならないのか。

三はやや細かいが、秦可卿の死に際して、二人の侍女のうち一人は頭を柱にぶつけて死に、もう一人は可卿の娘分になりたいと申し出ている。一族はこの二人の行動に、揃って首をかしげている。

四について。尤氏はつい前の十一回でも元気な姿を見せているが、今回は可卿の死から葬式が終わるまでの間ずっと病気を理由に引きこもり、栄国邸から熙鳳を呼ばねばならぬほどの事態になってしまった。なんでいきなり病気になどかかってしまったのか。

これらの疑問だが、実は物語の前後を読み込むと答えがわかるようになっている。もっともわかりやすいのが紅楼夢の第五回、宝玉が夢の中で見た紅楼夢十二曲である。この中では紅楼夢の主要ヒロイン達の結末が歌われており、秦可卿の最後は「首吊り自殺」となっている。
つまり、秦可卿の死は自殺なのだ。
じゃあ、なんで自殺しなければならなかったのか。そのヒントは、第七回の記事で紹介した寧国邸の執事、頼大の台詞にある。彼は市井の言葉で珍に関して「舅と嫁が通じている」と口にしている。そう、秦可卿は珍と関係を持っていたのだ。だからこそ、珍は可愛がっていた彼女の死に対して過剰に騒ぎ立てるのだ。そして尤氏が引きこもる理由も、これである程度説明出来る。夫のあからさまな態度を見せられて、我慢出来なくなったのだろう。彼女は可卿と自分の夫の関係を知っていたに違いない。だから醜聞を恐れ、今回の一件からは離れようとしていたのだ。
もちろん、聡明な方々はここで突っ込みたくなるかもしれない。「可卿と珍が不倫していたのはわかるけど、何でこのタイミングで自殺したの?」と。
不倫が自殺のきっかけになるとすれば、そのタイミングは「不倫がばれた」時に他ならない。では誰にばれたのか。その答えが可卿の二人の侍女である。一人は自殺し、一人は娘分になる。明らかに妙な行動だ。よほどの理由がなければこんなことをする必要はない。そう、二人が可卿と珍の現場を見てしまったのだ。それが可卿自殺のきっかけということ。知ってはならない秘密を知ってしまった侍女二人も、ただで済むはずはない。

さて、この第十三回、どうしてこんなわかりにくい話になってしまったのか。
もともと紅楼夢は完全な創作ではなく、作者曹雪芹の一家がモチーフになっているとされる。後に訪れる賈家の悲劇は、実際に作者の身の回りで起こっていたことらしいのだ。当然、醜聞を作品に反映すれば、たかが小説とはいえそれを気に掛ける人々も出てくる。自分の一族の舅と嫁が通じたなんて恥ずかしい話を、物語として世の中に出すとは許せん! ということで、この回は大幅に改稿されたのだ。しかし作者はあちこちにヒントをちりばめていたため、読み込めば真実がわかるようになっているわけである。
中国の小説は現代にいたるまで、当局の監視が厳しいことで有名だ。ちょっとお上の気に入らないことを書けば、小説だろうが日記だろうが即禁書、作者は犯罪者として投獄である。ちなみに現代にいたっても、中国文壇は政治方面との結びつきが非常に強く、表現の自由が全然無かったりする。紅楼夢が書かれた清朝時代の文壇だと、小説の立場はかなり低かったが、それでも政府による検閲は厳しかった。なので作者はわざわざ第一回にて「政治的なことなんか全然書いてないですよ」と本文中でわざわざ断りまで載せている(実際は嘘としか思えないけど)。身内の醜聞もおおっぴらに書くわけにはいかず、今回のようにほのめかすかたちとなってしまったのだ。
今回の秦可卿にとどまらず、紅楼夢には隠されたメッセージが数多く潜んでいる。読者を魅了してやまない要素の一つだろう。

亡くなった秦可卿に関係する人物達
秦可卿…煕鳳の夢に現れて、今後の賈家の未来をちょっと明かした。今回で出番終わりかと思いきや、幽霊になって登場する。
王煕鳳…可卿の死をきっかけに、寧国邸の家政へ関わるように。彼女はどんどん権力を握っていくことになる。
賈宝玉…可卿の死を感じとり吐血した。
賈珍…今回一番あやしいオヤジ。可卿の葬式のため息子に官職を買ったり高価な棺桶を取り寄せたり金を使いまくり。
賈蓉…オヤジの行動にポカーンしているに違いない。
尤氏…今回の騒動を一番苦々しく思っているであろう人物。
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C.O.M.M.E.N.T

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2014/07/11 (Fri) 14:37 | # | | 編集 | 返信

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