第二十五回 妾腹の悲しさよ


・前回、賈芸に声をかけられて抱き寄せられそうになった紅玉、とっさに逃れようとして敷居につまずいた……とそこで目が覚め、自分の見ていたのはだったことに気がつく。しょんぼりして翌日も元気が出ない。

・宝玉も宝玉で、昨日お茶くみをしてくれた紅玉が気にかかっていたが、何せ侍女見習いだし、人柄がいいかもわからないし、そばに呼んだら他の侍女が気を悪くするかも、と思って声がかけられない。

・翌日、賈環が王夫人の部屋で写経の真っ最中。しかし集中力ゼロなうえ、しきりに侍女達へちょっかいを出してばかり。
侍女達も環を嫌っているので無視していたが、ただ一人彩霞という子だけが、彼のために茶を出してあげた。
「若様、少し落ち着いてくださいましな。人に嫌われるような真似ばかりなさるんですから」
「ちぇ。お前も近頃宝玉と仲良くなったから、そんな風に言うんだろ」
「こっちは親切で言ってるのに、何でそんなことをおっしゃるんですの」
 そこへ王煕鳳がやってきて、王夫人と話し始める。遅れて、宝玉も現れた。グデングデンに酔っ払い、母親に抱きついてあれこれ話し出す。王夫人は息子を溺愛しているので怒りもしない。
「まあお前、飲み過ぎたのね。ほっぺがこんなに熱いわ。さあ、座っておやすみなさい」
 それから、彩霞に宝玉の肩を叩かせる。彩霞は環の方にばかり目を向け、宝玉にはつれない様子。宝玉は笑いながら彼女に絡みだす。酔っ払いのオヤジかお前は。
「おねえさあん、少しは僕の相手もしてくれよう」
「もうっ、やめてくださいな。そんな真似をしていると騒ぎましてよ」
 横でこの様子を見ていた環、イライラゲージが上昇。そばにあった燭台を宝玉の方向へ突き飛ばす。
「あちいいいい!」
 蝋燭の蝋が、見事顔面に命中した。痛みに宝玉が飛び上がったのを見て、王夫人や煕鳳が慌てて駆けつける。幸い、大事は無かった。そこで、煕鳳がぽつり。
「あらまあ、環ちゃんったらそそっかしいのねえ。こういうの、普段からしつけるべき人がしつけておくべきでしょうに」
 王夫人、その言葉ですぐさま環の母、趙氏に当たり散らす。
「こんなクソガキを産んでおいて、ろくにしつけもしないとは! 私が日頃大人しいからといってつけあがる気なの!」
 趙氏は言い返すことも出来ず、すすんで宝玉の介抱にあたる。が、腹の中は真っ黒。

・宝玉のご機嫌伺いにやってきた名付け親の馬道婆は、挨拶回りで趙氏のところへもやってきた。彼女が煕鳳と宝玉に恨み骨髄なのを知り、呪術で二人を殺す計画を立てる。

・林黛玉、宝釵、煕鳳、李紈、趙氏、周氏といった人物が宝玉の部屋に集合、ワイワイとおしゃべりで盛り上がる。
突然、宝玉が頭痛を訴える。狂いながら部屋中で暴れまわる。一方の煕鳳も剣を手に大暴れ。一体何が起きたのか、ばったり倒れた二人は何日も意識不明に。

・段々弱っていく宝玉と煕鳳を見て、賈家は上から下まで悲しみに暮れる。こんな状況で一人密かに小躍りしている趙氏。四日目、宝玉が「僕はもう駄目です」なんていったのをきっかけに「宝玉様の棺を用意してさしあげましょう(もう死ぬから楽にさせてやろうぜって意味です)」などとぬかす。
趙氏の言葉にブチ切れた史太君はジェノサイド宣言。
「もし宝玉が死んだら、おめーら全員生かしておかねえから覚悟しろ! 何、もう棺桶作ったやつがいる? ぶち殺せ!」

・そんなところへやってきたしらくも頭の坊主とびっこの道士。いかにも怪しい連中だが、病を治してしんぜようと口にするので、賈政は二人を引き入れる。坊主が賈政に聞く。
「御宅には玉などございませんかな?」
「はあ、息子が確かに玉を含んで生まれましたが、何の霊験も無い有り様で…」
「ではひとつ、わたしどもがその玉の祈祷をいたしましょうぞ」
坊主は宝玉の通霊宝玉を受け取るなり、ため息をつく。
「おいおい、こんなに俗世にまみれてしまいおって。昔は立派だったのにのう」
そして何やら呪文を唱え、賈政に玉を汚さないよう言い残して去っていく。夜分になって宝玉と煕鳳はみるみる回復。一同はようやく胸をなでおろすのだった。

次回を待て

小言
今回の主な話は三つ。一つは恋の病に悩む林紅玉。一つは賈環の嫉妬話。一つは宝玉と煕鳳の病気。一つの回の中で、複数の話が同時進行したりするので、読者としてはなかなか気が抜けない。ちょっとした登場人物の台詞や行動が、後々の回に思わぬ形で繋がっていたりすることも。
さて、今回の見どころは正妻母子と妾母子の対比だろう。王夫人と趙氏、宝玉と環の間には絶対的な格差が存在しており、煕鳳や侍女達の態度からもそれが明確に見て取れる。まあ、趙氏や環の性格にもかなり問題があるため、それが余計に彼らの立場を悪くしているのだが。
宝玉と熙鳳が突然奇病を発したのは、もちろん呪いのせい……というわけでもないらしく、発疹チブスにかかっていたためという説がある。秦氏の葬儀で鉄檻寺に出かけた二人が、蚕を経由して感染したらしい。まあこれは紅楼夢学者の一説なので、本当のところは不明。もっとも紅楼夢の作者・曹雪芹は、自らが現実に体験した出来事をファンタジーの皮を被せて描いているフシが多々あるので、あながちはずれとも言えまい。

気になる人物達
賈宝玉…火傷を負ったり病気にかかったり、災難続き。まあ日頃遊んでばかりだし、たまにはいい薬だろう。
賈環…もう少し素直になろうよ。
王夫人…息子に甘く、妾やその子供に厳しい。いや奥さん、どう見ても今回の事件は息子さんにも非があるんですけど。毎回こんな調子なので、諸悪の根元呼ばわりされる人でもある。
林黛玉…宝玉の火傷を聞いてすっ飛んでくる。かわいいとこあるじゃん。
彩霞…王夫人の侍女。環と気の合う希有な存在。
趙氏…息子の不始末を怒られて面目丸潰れ。まああんたの教育に問題があるのも間違いない。
周氏…賈政三人目の妾。出番少なし。趙氏と違って貞淑な人。だが肝心の子供はいない。
史太君…孫と嫁の病気に誰よりも悲しむ。
馬道婆…今回のキーパーソン。宝玉の名付け親。火傷した宝玉のためと称して願掛けの品物を売りつけたり、かと思えば趙氏相手に宝玉と煕鳳をコロス相談を持ちかけたり、凄まじき外道。
坊主と道士…第一回に出ていたあのお二方。下界に下ろしてあげた石君が見事なまでに俗世の垢まみれなので悲しんでいた。これからもちょくちょく登場する。
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