第三十回 金かんざしが井戸に落ちても…


・宝玉が襲人から説得されている一方、黛玉の方も紫鵑から諌められていた。
紫鵑「この前は黛玉様も軽率でしたわ。他の方ならともかく、あなた様は宝玉様のご気性をわかっておられるはずなのですし…」
黛玉「はぁ? お前あの人のために私を悪者にしようっての?」
紫鵑「わたくしの見ますところ、宝玉様は平素から黛玉様にとてもお優しくしておられますわ。それを黛玉様ときたら、お心が狭いばかりにあの方へケチをつけてばかりですもの」
うむ。さすがに主のことをよくわかっている。
 と、タイミングよく宝玉がやってきた模様。嬉しそうに扉を開けようとする紫鵑。が――。
「開けては駄目よ!」
 ひすてりぃに怒鳴る黛玉。
「まあ。こんな熱い日に、扉の前で立ち往生させてはいけませんわ」
 紫鵑もさるもの、にこやかに切り返して扉を開ける。宝玉ははやる様子で黛玉の病状を尋ねた。
紫鵑「ご病気の方は、まあまあよくおなりですわ。でも、虫の居所が悪いようで」
宝玉、すぐさま黛玉のそばへ行ってまくし立てる。
「黛ちゃん、もう僕に腹を立ててないことはわかってますから。それより、このままだと周りの人もずっと僕らが喧嘩していると思いますよ。だから、せめて相手くらいはしてくださいね」
 おお、いい感じだぞ宝玉。これで仲直りだね! 
 しかし、ここで素直にならないのが、我らのヒロイン、林黛玉なのである。
「もういいのよ、私なんか遠くへ行ったものだと思ってよ」
「どこへ行くっていうんです」
「生まれ故郷よ」
「じゃ~僕もついてこう」
「私、死ぬわ」
「君が死んだら、僕は坊主になるよ」
「どうしてそう、やたらなことを言うの!」
 泣き出した黛玉はハンカチを宝玉へ投げつける。どうしたらいいんだよ。

・こう着状態のところへやってきたのは王煕鳳。
「あら、もう仲直りしたの?」←してないしてない。
 煕鳳によって無理矢理史太君のところへ連れ出される二人。そこには宝釵もいる。
宝玉「あれ、宝釵姐さんはどうして芝居を見に行かないの?」
宝釵「外が暑いものですから。具合がわるくなったとごまかして、出てきましたの」
芝居見物から逃げてきていた宝玉は、宝釵にあてこすりを言われたような気がして、思わず言い返す。「ははあ、道理でみんな宝釵姉様を現代版楊貴妃(楊貴妃といえば豊満美女。つまり…デb)なんていうんですねえ。そんなポッチャリ体型じゃ、そりゃ暑くもなりますよ
 大人しい宝釵もこれには怒り。冷笑して言い返す。「私が楊貴妃でも、楊国忠(楊貴妃の弟で極悪人)みたいな弟がいないのが残念ですこと」
そこへ侍女見習いの靛児がやってきて「宝釵お嬢様。あたしの扇子をお隠しになったんじゃありませんか? お願いだから返してくださいな」
「誰がお前の扇子なんか! 日頃ふざけあってるお姉さん達にでも聞けば?」←もちろん、宝玉へのあてこすり。
 学習能力がないのか、それでも懲りない宝玉はまたしても芝居の題目をタネに突っかかるが、宝釵によって黛玉ともども一蹴されてしまうのだった。

・夏日和でみんな昼間はうとうと。王夫人のところへやってきた宝玉は、母親の肩を揉みながら寝ぼけている侍女・金釧児を発見してふざけかかる。
「明日にでもおまえを僕の部屋に貰ってあげるよ」
「何を焦ってるんですの。金簪が井戸に落ちても、主のものに変わりなし、って言うじゃありませんか」
 突然、寝ていたはずの王夫人が起き上がりざま、金釧児へビンタ一発。
「この女狐! 真面目な主も、お前みたいな輩のせいでたぶらかされるんだわ!」
 宝玉は慌ててその場を逃げだす(おい)。王夫人がそばにいた金釧児の従妹、玉釧児へ一言。
「お前の母親をお呼び。この姉を引き取らせるから」
「二度といたしません、奥様。どうかお暇を出すことだけはやめてくださいませ!」
 泣いてすがる金釧児を、冷たく追い出す王夫人だった。

・逃げ出した宝玉は、大観園の片隅でひたすら「薔」の字を書き続ける少女を見かける。それは元春妃の祝いで呼ばれた十二人の娘役者の一人だった。雨が降ってきたので、急ぎ怡紅院へ戻る宝玉。

・が、侍女達は遊びに夢中で、戸を叩く宝玉に気がつかない。ようやくやってきた襲人が門を開けたが、無視されて怒りのボルテージを上昇させていた宝玉は、相手が誰かも確かめずに渾身のキックを放つ。哀れ襲人、みぞおちにクリティカルヒットを食らってしまう。これには宝玉も狼狽。痛みをこらえて仕事に励む襲人だったが、夜になって吐血してしまうのだった。

待て次回

小言
宝玉と黛玉を中心に据えつつ、周囲の物語が進行中。
今回の大きな事件は、追い出されてしまった金釧児さんの一件だろう。王夫人の極端な怒りっぷりには、初見の読者だと混乱するはず。まあ端的に言えば、金釧児の言葉を盗み聞いて、王夫人が彼女を淫乱な輩だと思い込んだだけなんだけど。
ちなみに今回出てきた「薔」の字を書き続ける娘の正体、それはまた後の回で説明しよう、フッフッフ(ってまたこれかい)。

気になる人物達
賈宝玉…どうも照れ隠しでおふざけを言ってしまう癖があるようだ。金釧児がぶたれた時の対応が酷過ぎる。とはいえ、宝玉があの場で王夫人に物申したとしても、状況が変わったとは思えないのも確か。彼はおうちの若様だが、家のことに関して強力な決定権を持っているわけではない。この時代の中国は儒教精神がんじがらめで、目上のやることは絶対、つまりどう転んでも王夫人には逆らえないのだ。やりきれないねえ。
林黛玉…すねたり泣いたり忙しいヒロイン。紫鵑に諭された時の態度が酷過ぎる。
薛宝釵…前回からデブであることを強調され続けているヒロイン第二号。作者の嫌がらせか? でも楊貴妃に例えられるなら綺麗なデブだね…ってこれ褒めてることになるんかいな。宝玉と黛玉を二人まとめてとっちめる実力者。やるねェ。
王夫人…宝玉の母。相変わらず視野の狭いことで。いろいろ酷過ぎる。
金釧児…王夫人の侍女。その逆鱗に触れて追い出されることに。どう考えてもたぶらかしたのは宝玉なんですが。これが侍女身分の悲しさか。宝玉に対して口にした台詞は、後に酷い結果をもたらす。
襲人…宝玉のキックで重傷を負う。何も悪いことしてないのにね。
紫鵑…黛玉の侍女。ヒステリックな主を穏やかにたしなめる良い子。いよいよ存在感が出てきた。
靛児…今回限り登場(のハズ)の侍女見習い。とばっちりで宝釵に怒られる。登場がタイミング悪かったね。
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